第6話 初仕事(野良)

 二時間の航海は何事も無く終わり、目的地のアステロイドベルトに到着しました。船の前面部の採掘レーザーをオンラインにして、ロックオンした小惑星に向けて赤いレーザーを照射。型落ちの中古船ですが採掘をさせる分には問題なく稼働してくれています。


「コンテナに入る程度の大きさにカットして詰め込みですね。…新し目の船ならもっと楽なんですが、仕方ありませんね」

『ピピ』

「レーダーの監視は任せましたよタマ」

『ピピピ』


 採掘に使われるレーザーは、兵器のレーザーと比べて威力が抑えてられています。単純に戦闘用ではないのと時間をかければ十分に採掘が可能性であり、もしも通りかかっただけの他の船に誤射をしてしまっても、船のシールドを貫通しない低威力に留まらせる必要があるからです。


 人類が跋扈する宇宙ではデブリも多く、シールドを搭載しなければ船は直ぐにダメになってしまうとのこと。最も船にシールドを付けるなんて特別気にする必要もなく、メーカーが備え付けているのが一般的。レーダーや重力装置なんかもまとめて搭載されています。基本的に最低限の物で後から性能の良い装置に載せ替えるのが多いんだそうで、中古船として売却する時には元のパーツに乗せ直すのです。


 船のアチラコチラに傷が残るこの中古船も、船の中身は新品同然だとはお得な気分です。


「タマ、切り出した岩石をコンテナに」

『ピ』

「任せてしまってごめんなさい。…クレジットが貯まったらトラクタービーム買いますから」


 トラクタービームがあれば無抵抗な対象を引き寄せる事が出来ます。小惑星から切り出した岩を引き寄せられれば採掘船の機能で、コンテナまでの自動格納が行えて効率が大きく向上します。


「あ、でもその時はブラック・ローズを積む余裕がないですね」

『ピ!』

「え、船影ですか…ロックシェルは採掘を続けます。ブラック・ローズは警戒態勢を!」


 ロックシェルに搭載されているレーダーよりもブラック・ローズのレーダーの方が優秀なようです。考えてみればブラック・ローズは量産機がベースですがその機体元は軍用品、武装の装備がなかったから勘違いしがちですがレーダーが優秀でも何ら可笑しくないのでした。


「あ、レーダーに感…は?」

『ピピ?』


 猛スピードで接近する船はアステロイドベルトに侵入、船は小惑星に接触するも、数度の接触に耐えたシールドが限界に達し強制解除。続く衝突で爆発を起こし炎上、レーダーの反応が消失した。


『え、ええっと』

『ピピ』

「そう、ですね……タマ、生体反応を調べてみてください」


 案の定と言うと不謹慎ですがブラック・ローズからの連絡では生体反応はやはり感知出来ませんでした。


 船を動かす燃料が燃え尽きると炎は直ぐに鎮火、焼け焦げ破損した船だけがその場に残されました。


「ええっと…船が残骸。いえ、宇宙空間でのデブリの扱いは…」


 ターミナルを開いて色々な項目を確認しますがこんなレアケースを想定した回答は用意されていないようで、仕方なく難破船の扱いとしてロックシェルで船を引っ張って行くことにします。


「採掘が出来たのはコンテナが一つ分ですか…最低でも燃料代になれば良いのですが…帰航しますか」


 残りのコンテナ一杯に岩を詰め込んでも良いのですが、時間が経ちすぎて私が撃墜したと怪しまれるのは避けたいです。取り調べで数日拘束されでもさたら、お金のない私は干上がってしまいます。


「タマ、牽引ロープを繋いだらロックシェルに戻って、帰港します」

『ピピ』


 行きと同じ航路を同じ時間進み、早く切り上げる事になったので予定より少し残った燃料を抱えて交易センターを有する八番コロニーに到着する。


「管制官さん、こちらロックシェルの船長サクヤ。応答願います」

『こちら管制塔、ロックシェル何かあったのか?』

「アステロイドベルトで小惑星の採掘を行っていたのですが、そこに不審船が現れ高速のままアステロイドベルトに突撃。大破炎上しまさたので、こちらまで牽引してきました」

『はあ?』

「確認に行った時には、既に生体反応は感知できませんでした。この様な場合にどのような判断が適切か判断できず、採掘を取りやめて牽引してきました」

『…了解した。一先ずは停泊地ではなく、ドックに入ってくれ。職員を向かわせる』

「了解いたしました。エスコートをお願いします」

『貴方のような美人が相手なら喜んで…ガイドビーコンに従って八十三番ドックへ』


 初めてのお仕事は大した稼ぎにはならなそうですが、時間は私の力強い味方。焦らずどっしりと構えて行くことにしましょう。

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