第2話 取調室

 白と黒の色合いが美しい防弾ドレスを纏った少女は、オレンヒトの担当官より個室での聴取を受けていた。


「個体名「サクヤ」身長百六十二センチメートル、体重キログラム。性別「女」種族「ガーランド」身体的特徴「銀髪」「不自然に均一な虹眼」「全身に及ぶ義体化」……貴方、何者ですか?」

「……サクヤと申します」

「…それは既にお聴きしました」


 私はケンさんの救出に成功し、残った賊の船を襲われていた調査船と協力して撃退。安全が最優先の為、無理に追撃をする事もなくケンさんの勧めもあってその場で待機しました。


 しばらく待機していると、宙域のコロニーから派遣された治安維持軍から聴取を受ける事になりました。


 ハリボテツギハギの怪しい船舶なのは勿論ですが、寄せ集めのために碌な通信機材が無く使えるのは接触回線のみでして、それはもう立派な不審船です。しかも、行方不明の調査船から集めたパーツの寄せ集めですから尚の事。


 疑いを掛けられるだけならいざ知らず犯罪者として懸賞金を掛けられる訳にもいきませんから、ケンさんと二人で大人しく指示に従い無抵抗で拘束されまして、こうして取り調べを受けています。


「あのシーリング…えー…ケン・オーダーはIDの登録も確認できましたが。貴方はIDどころか存在を証明するデータが何一つとしてないのですが?」

「ガーランドにはIDのないものは多いですし、誰も道端で捨てられている子供には興味がないのでしょう」

「…っ」


 この銀河で一番数の多いのがガーランド種です。その人工の多さの所為で誰も人工の総数を把握しておらず、どんな星系にも一定数が暮らしている事から、銀河系のいたる所で見受けられる種族の代表格です。


 そんなガーランドですが母体数が多ければ後ろ暗い行いに巻き込まれる割合も多く、いつ誰が産んだのか分からない子供が打ち捨てられていたり、運良く生き残った孤児も、生後直ぐに与えられるIDの類を与えられておらず、犯罪で食いつなぐしかない子共が一定数存在しています。


 そんなガーランド種の事情を利用して新しいIDを作っちゃおうというのが、ケンさんから収集した情報を元に考えた作戦です。


「それで…全身を」

「身体の事は放っておいてください」

「…失礼、これが私の仕事なもので」


 話をしていると取り調べの担当官さんは良い人のように感じています。北風と太陽とは言いますが、強硬な手段に出ることは今のところありませんし。


「それでは、あの人型の乗り物についてですが…」

「私を助けてくれた軍人の方に頂きました」

「軍人…所属は分かりますか?」


 担当官の目が一瞬輝くと、話に食いついて来た。


「私は軍に詳しくは…」

「ああ、そうですよね。辛い日々を送ってこられた…そんな環境にないと。何といって機体を渡されたのでしょう?」

「たしか「私が開発設計した機体だ」とか…」

「軍で開発された?」


 担当官は訝しむ様に首を傾げ、耳をピクピクと動かす。


「どちらかと言うと個人ではないかと」

「ふーむ、確かに軍で作るには趣味的に過ぎます」


 私のブラック・ローズは船と共に港に運び込まれた。恐らくスキャン解析を受けているはずで、最悪の事態を恐れて現在はタマに守らせている。


「分かりました。…これまで冷静且つ協力的な態度でありましたので、当コロニー、アイゲンシュタルツへの入港を正式に許可致します」

「あ、ありがとうございます」


 ついた嘘が嘘なので、安全なコロニーに入れるだけで有り難く感じてしまいます。


「それでは新しいIDを発行いたします。…えー、義体化の為IDはターミナル式で五万九千クレジット、港の使用料が…最小ブロックの一日一サイクル貸出で二千クレジット、IDなしの治安維持部隊から保護で十八万六千クレジット。合計で二十四万七千クレジットのお支払いになります」

「にじゅうよんまんななせんくれじっと?」

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