第17話 ブラック・ローズ

 威勢よく拳を掲げたまでは良かった。機体に構えを取らせるのは何も間違ってはいないし、立ち姿は見栄えもする。


 とはいえ、非武装。確かに全長十五メートルの金属製の身体は質量兵器と言って差し支えない。だが、相手が自分より巨大な二十メートル級の生物ならば話は変わってくる。


「このイノシシにとって見れば、ブラック・ローズの拳なんて小石も同然ですし……」

「ピ(まぁねぇ)」

「一体どこから現れたのです。このイノシシもどきは!」

「ピピピ(生体反応を感知するレーダーの範囲は、本機の周囲から四メートル弱です)」

「ああ、もう!」


 様子をうかがうのを止めたイノシシが、四本の牙をこちらに向けて走り出す。イカ頭の人を後ろに被った状態では満足に動くことはできず、機体は大きな衝撃を受け止めなければならなかった。


「…っ!」

「ピピ(機体損傷、戦闘行動に支障なし)」

「受け止めて、あげました」


 イノシシの牙を掴み、重量を押し付けるようにしてイノシシの突進にぶつけた。機体の各関節に損傷が発生したが、この衝撃が相手では初めから傷無しの勝利とは行かない。甘んじて受け入れる他ないのだ。


「このまま持ち上げ……無理です!」

「ピピピピ(推定重量、約三トンです。ブラック・ローズなら十分に持ち上げられます)」

「ほんとにぃ?」

「ピピピピピピピ(通常の量産機では不可能ですが、本機はアルクビエレ・ドライブの実験設備の建設重機として持ち込まれました。そのため重力下の超重量貨物を運搬できるだけの性能を有しています)」


 ユニティブは宇宙での活動専用に作り出された兵科。何かしらの作業を求められるのも宇宙であり、重力下ならば交易センターの中だけど、あくまで低重力下の環境である。


「信じるわっよ!!」


 ブラック・ローズの全身が駆動し、イノシシの巨体に力を加えてゆく。ゆっくりと持ち上がった巨体が、足をバタつかせながら地面の上に戻ろうと抵抗する。体当たりの衝撃をなんなく耐えるイノシシの牙は頑丈で、持ち上げた三トンもの体重を支えている。


「ピピピ(脚部異常感知!)」

「このまま、叩きつける!!」


 持ち上げたイノシシを頭から落ちる様に叩きつけた。


「ピィギアァ!!?」

「これで動きは止まりました!」

「ピ(いいぞ〜)」


 再度地面に叩きつけよう考えたが、この程度の威力では大したダメージを与えられず起き上がったイノシシに再度の突撃を仕掛けられてしまう。同じ事を繰り返していては、寄せ集めのブラック・ローズの方が分が悪い。


「な、何か」


 ユニティブの武器として使えそうな物を探す。時間はない。黒煙と瓦礫の中で必死に辺りを解析をかけながら、視界を確保するべく辺りを見渡す。


「アレしかない」

「ピピ(え?)」


 私はブラック・ローズの出力を上げて、を上げた金属の塊を両腕で一抱えにする。


「いっけえぇぇえぇぇえ!!」


 金属の塊の鋭い穂先をイノシシに向き構えると、

背中から花弁ペータルを噴射し突き進んだ。


 それは古代の騎士が行ったランスチャージの様にイノシシの柔らかい腹を穿ち、辺りに濃厚な血の匂いが広がる。


「ヒギィ!?」

「見た目は全然似てないのに、鳴き声だけそれっぽい」


 ブラック・ローズがイノシシに突き入れたのは、宇宙から落ちてきた小型の宇宙船。船体の中程からポッキリと折れたように破損した船を即席の槍として突き刺したのだ。


 貴重な異星人の技術をイノシシもどきの新鮮な血液で失ってしまう可能性よりも、異星人本人の命を取ったのだ。

 

「あとは救助…ですかね」

「ピピピ(状況終了。機体損傷軽微、作戦行動に支障ありません)」


 作戦ありきで動いていないとタマにツッコミを入れる余力もわかず、ブラック・ローズは力尽きた様にその場で佇むのだった。

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