第15話 異変発生

 目覚めると言うのは、こういう状態を指すのでしょう。新たな身体に宿った電子生命は、異音なく軽やかに駆動する手を目の前でヒラヒラと動かしてみせる。


「確か…サクヤでしたか。では私は今日此時よりサクヤと名乗りましょう」 

「ピ?」

「ああ、タマ。どうでしょうか、新しい私は?」

「ピピピ、ピ?」


 急に動き出した私に理解が及ばないのか、私の周りをクルクルと周り出す。


「ふふふ、戸惑うことはないわ。メイドロイド…ガイドノイドの後継機なら、違和感なく乗り移れると思ったの」

「ピ?」

「結果は見ての……あら、まだわかってないの?」

「ピピピ?」


 ガイドノイドの耳に収納されている接続ケーブルを新しい身体である月花サクヤに繋いで乗り移っただけなのだけれど、タマには目の前で見せても理解できていないよう。


「あなたに手伝って作った交換部品が無駄になるけど、こっちの方が性能も安全性も上だから仕方ないじゃない?」

「ピ!?」

「そうよ、あっちの古い身体からコッチの新しい身体に移ったの」

「ピー」

「ああ、そうね。データ移行みたいなものよ」

「ピピ」


 ようやく納得したのか、グルグル転がりまわるのを止めたタマは、感情の読めない不変の顔で電子音を鳴らした。


 「武装は…ふふふ、人工ダイアモンド製ストロングスピアに、人工ダイアモンドの弾丸を放つダイレクトメッセージですか…あら、捕獲用の電流も手から出せると…」


 要人警護では、襲撃者を確保しなければならない場面がある。使い捨ての駒でも情報を抱えている者はいるものだから。


 ガイドノイドの持つ幅広く豊富な知識は、元の身体に残して行くのが勿体ない。ダウンロードしてサクヤの知識に追加しておこう。


「む、無事にメイドロイドの起動に成功したようだな」

「ツカサ…なんとかさん」

「ではメイドロイド、ブラック・ローズに乗り込み起動したまえ。遥か空の先でキミを待つ」

「…ピ」


 最後の音声を惜しむように、タマは寂しげに声を鳴らした。


「さぁブラック・ローズ、お仕事ですよ」


 ブラック・ローズを遠隔操作で操り、胴体を開かせコックピットに乗り込む。権限を与えられたメイドロイドならば、直接乗り込まずにある程度の動作を行える。


「タマ乗りなさい!」

「ピ!」


 ツカサ・カドイチが残した音声にあったサポートボールは、やはりタマてあっていた。私をこの場所に導いた理由はわからないけれど、この場にユニティブが残されている以上、クブアで生き残った人類は居なかったのだろう。


 タマを搭載したブラック・ローズは、機体に備わった全ての機能をアクティブにしても、数百年単位で活動できるだけのエネルギーを保持する。ヤタチニウムは相応に貴重な物質のはずなのだけど、あの研究員はどうやって手に入れたのか。


「レーダーに反応?」

「ピピピー(大気圏外から大型の船影多数!)」

「連合、それとも帝国でしょうか?」

「ピ(どうする?)」

「そう…ですね。行ってみるべきでしょうか…連合国にしろ帝国にしても」


 ブラック・ローズならば単騎で成層圏を超えて宇宙に到達できる。しかし、ユニティブの特性上、瞬間最高速度はともかく最高速度はあまり求められておらず、試作機の一つであったブラック・ローズも比較的に近い惑星でも数十日は掛かるだろう。


 私はタマのエネルギーがあるので、移動するだけならば問題はありません。しかし、これから一個の命として生きてゆく以上は、知性ある生物らしい振る舞いが求められます。とどのつまり、金銭が必要になるということです。使う宛の方はあまり思い至りませんが、ハッキングだけで情報収集をするのも限界があるでしょうし。情報屋なんかの付き合いも必要になるかもしれませんね。


 何がお金になるか分からない現状ですから、ジャンク部品や廃材何かを船に積み込んでクブアを旅立ちたいというのが本音です。


「ブラック・ローズ、発進です」

「ピ(穴まで歩いていくだけだけどね〜)」

そこから飛び立つのですから、良いんです!」


 撃ち出されたロケットの様に地下から飛び出したブラック・ローズは、レーダーの反応を追いかけて船影の到達予測値点へと飛び立った。


 ブラック・ローズの「ペータル」が産み出す漆黒の花弁が、その名を知らしめていた。

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