第14話 月花サクヤ
指示に従って端末を操作すると、格納されていた大小のコンテナが床から迫り上がってくる。
「メイドロイドにユニティブ……もし本当なら大変助かるのですが…」
「ピ」
「だがここに居るのがキミでは無く、君達であるのならば申し訳ない」
コンテナの重い開閉部が重低音を響かせて開いてゆく。コンテナの中からは大きさの異なる人影が、薄っすらとその形を知らしめている。
「私と私の協力者で用意できたのは、ブラック・ローズ一機が精一杯だった。各地に宇宙船の部品を運び込むことには成功したものの、それを組み立てる時間も人的資源も用意できなかったのだ……真に申し訳なく思っている」
「私は一人ですし、タマならどこにでも乗れますから……でも、宇宙船の部品はあるのですか」
「ピぃ?」
「時間次第ですが、探して組み立てたいですね。ユニティブは、長距離の移動に向いていませんし」
二つのコンテナが開閉し、その中の人影が輪郭を持って
「こらがユニティブ「ブラック・ローズ」ですか」
一言で感想を述べるのなら、それは「美しい」でしょうか。ブラックの何違わず黒を基調とした色付きをした機体は、人型の機械であるにも関わらず流線を描く様に凹凸がない。装甲の下はまた別なのでしょうが、地上での運用にも対応しているのでしょう。
背面部には長方形の穴のようなものが二つ空いており、位置を見る限り推進器のように見えます。
「ブラック・ローズ。その名が示すのは、私が開発した新たな推進機関「ペータル」から生まれ散る花弁に由来する」
「花ですか……意外と
「ペータルは出力が零か百かを短時間の内に何度も求められるユニティブの為に開発した物だ。特殊な機構を余儀なくされた結果、
「それでメイドロイドですか、確かに世話役なら手続きなどはお手の物ですね」
関心より納得の方が先に来る。
視線をブラック・ローズからメイドロイドへ向けて、静かに頷いた。
「ええ、時間が取れたので別の日に録音している。メイドロイドの話だった様に思う……メイドロイドについて伝えよう。えー…アドバンスプリズム社製高官護衛用メイドロイド「
「それは盗んだのでは?」
「私は技術畑の人間だが、軍人。何の問題もない……だろう」
「そこで不安になられても…」
「私はメイドロイドには余り詳しくないが、何世紀か前にはメイドロイドの始祖としてガイドノイドが登場したが……これは既に博物館の住人だ」
「博物館……」
自分が骨董品なのは理解していますが、博物館に展示されるような扱いを受けているとは。
(いえ、私は電子生命体。ガイドノイドの身体はあくまでも入れ物に過ぎないのです…私は生まれたてです!)
「ピピピ」
「宇宙に上がり戦争のやり方も大きく変化した。メイドロイドの主な戦場は艦内、つまり船に乗り込んできた侵入者の撃退が主な任務となる。もちろん護衛が一番の役目だが、船の安全を確保しなければ護衛対象を護れない事態は多い。メイドロイドはそういった事態に対応すべく、対人武装が多く搭載されているのが特徴だ……外見は高官どものご機嫌取りと言いたい所だが、高官同士または上層部との会談にあたり、不快感を与える要因を可能な限り排除したいのが実情だ。そのため古来から存在するメイドをデザインとして盛り込むことで、見目麗しい女性の姿を形どっても、古くから続く我々の文化であると言い訳がたつ……そんなところだ」
「なるほど…」
月花とは夜を象徴するクブアの衛星「仲月」から名付けられた花で、仲月が出ている夜の間だけ小さく可憐な白い花を咲かせるのが特徴です。
そんな月花の名前が付けられたメイドロイドは、今の私を下回る程に小柄で、身長に合わせたように揃えられた大人っぽい白銀のロブヘアが、未成熟な体付きとあわさり、絶妙なバランスで可憐な花として成り立っている。
「さぁ、サクヤを起動したまえ」
コンテナに仕込まれていた透明な容器が開き、メイドロイドはクブアの外気に晒された。
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