第13話 最後の希望

 不思議と言うほど、クブアの現状は良いものではありません。古くなった街並みにはあちらこちらでシンクホールが見られますし、無事に形を保っている建物など皆無なのです。


 だからでしょうか。削り取られたような縦穴に、真っすぐ伸びる梯子が掛かっていたのなら、それは不思議と呼ぶに値する現状なのではないでしょうか。


「ピ〜」

「あ、タマちゃん!」


 ためらうこと無く飛び込んだボールの影を追うようにつるつると梯子を滑り降り、乾いた音が足元からすると顔を上げて辺りを見渡した。


「ようこそ、楽園への階段へ。キミか、はたまた君達なのかは分からないが、ここにたどり着いたと言うことは私の残した痕跡ログを辿って来たのだろう」

「いや、誰ですか」


 梯子から一歩二歩と前進した私の元に届けられた音声に、思わずツッコミを炸裂させる。


「他の手掛かりを読み解いた君達には退屈だろうが、せめて最後の挨拶をさせてほしい」

「手掛かりってなんでしょうか?」


 もしかしたら、この場所にたどり着くまでの間に他の隠し部屋か何かがあったのやもしれません。ともあれば、きっと色々な仕掛けを施したのでしょう。私は悪くないのですが、なんだか申し訳ない気持ちです。


「私の名はツカサ・カドイチ。ユーレジア連合国軍技術解析部ユニティブ解析班所属、ツカサ・カドイチ中尉」

「また微妙な階級ですね」

「そして惑星クブアで生き残っているかも知れない人類の為に、最後の希望を遺す」

「なんだか話が早い」

「ピ?」


 私が降りてきた周り以外に、光源に照らされている場所はありませんが、暗視機能がある私には問題になりません。


 話半分に聞き流しながら、埃に埋もれている端末を起動できないか確認すべく、手で軽くモニターを拭う。


「私は惑星クブアから移住したあの日、まだ生まれてはいなかった過去の出来事を教育課程で歴史を学んだ……そして…」

「ふーん、エネルギーの供給さえしてやれば……動きました!」

「移住を拒みクブアに定住した者達の子孫が、未だクブアには居るのではないかと考えていた。君達がこの場所にたどり着いたのなら、その考えは正しかったのだと証明された」

「されてませんが……」

「ピィ〜」


 私は惑星クブアで生まれたので原住民扱いは妥当かもしれませんが、移住を拒んだ人類の子孫ではありません。


「まもなくこの惑星クブアは、バブルフィールド転移実験により、遠く銀河を越えた未観測宙域にワープする事になる」

「ワープした後なのですが…」

「百年もの間、支援もなく生き延びた君達の生存に期待して宇宙へのチケットを用意した。アドバンスプリズム社から手に入れた高官護衛用メイドロイド「月花サクヤ」とメイドロイド用に対応したユニティブ「ブラック・ローズ」だ。私の開発したブラック・ローズは試作型の為、改良点がいくつかあるが……」

「メイドロイド?」


 初めて聞く機体名に、思わず手を止めて考え込む。


(もしかして私の新しい体に?)


「近くにある端末を起動したまえ、これまでの道のりでその程度の知能は証明したはずだ」

「はぁ」


 この自動音声の言葉を信じるなら、この端末は百年前のものではなく、ごく最近になって持ち込まれた可能性が高い。実験用のバブルフィールド生成機を運ぶのに惑星に降り立ったはずなので、その時に持ち込まれたのだろう。


「端末を操作し地下に格納したプレゼントを受け取ってほしい」

「……まだ残っていたら、ですが」

「ピ」


 本当に生き残った人類がいたのなら、既に持ち去られた可能性を否定できず、不安に震える指先がピタリと止まる。


「……見せていただきましょうか、最後の希望と言う物を」

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