第12話 ヤタチニウム
ヤタチニウムが発見されたのは、人類が宇宙に人工衛星を浮かべ、次なる宇宙開発に向けて研究を重ねていた頃のこと。当時の主だった動力源は電気であり、その電気発電の主力と言えば原子力発電であり、それでも人類全体に灯りを届ける事は叶わなかった。
ヤタチニウムの名前は恒星の力を持つ「ヤタ」という神様のペットが由来となっている。これだけでも察する者はいるだろうが、このヤタチニウムは核融合と同等のエネルギーを生産する鉱石であり、鉱石が存在する限り実質無限の電力を生み出すことができる。
そんな人類のエネルギー問題を簡単に解決した物質。不思議な事に管理がとても簡単で、光に晒されない様に保管するだけ。ヤタチニウムは一定以上の光波に晒されると活発化し、核融合を始めエネルギーを発生させる。
発見された経緯は意外なもので、恒星に衝突した小惑星がもたらした運動エネルギーにより、恒星の内部に存在していたと思われるヤタチニウムが宇宙空間に弾き出された。衝突した小惑星自体は、何事もなく恒星の熱に溶かさたので、これ以降の話は記録が残っていない。
そんな世界がひっくり返るような物質をたかが運転アシストロボット、それも量産化されてどこにでもあるようなサポートボールに搭載することが、どれだけ馬鹿げたことなのかは語るに及びません。
「なんでなんですか〜!」
「ピ」
「は、まさか工場の動力源になろうとしてます?」
「ピぃ!」
確かにヤタチニウムのエネルギーを利用すれば、工場の設備どころか、惑星規模のエネルギーを賄うことが可能です。供給が届くならですが。
「確かにエネルギーは十分ですが……あなたにヤタチニウムの高エネルギーを制御…出来てますね。…考えてみたら制御ができていなければ、今頃はこの辺りはドロドロに溶けて」
「ピ!」
「あ、はい。すみません」
早くしろと怒られたような気がして、思わず謝ってしまいました。
出どころ不明のヤタチニウムという不安材料を懸念した所で、結局は試してみる他に無いのです。サポートボールの接続は世界中で統一された基準の端子を使用するので、割とどんな機械にも接続できちゃいます。
「ピ……ピピ」
「はー…タマちゃんがサポートボールっぽいお仕事をしています。完全に業務を逸脱している気がしますが…凄い子ですね」
エネルギーの供給された機械達が動き始め、古い機械らしい粗雑な音を奏でます。
「ピ!」
「はい、私の型番から分析した取替部品のデータです!」
実は私もタマちゃんと端子で接続し合っています。タマちゃんが男の子だったら嫌だなとか思いながらも、蓋になっている耳をパカっと開いてコードを伸ばして接続です。データのやり取りをする為の端子なのですが、微弱なエネルギーを送ってくれています。タマちゃんはいい子です。
「ピ〜………ピ!」
「金属しか用意できませんでしたからね…最悪あたらしい身体に乗り換えれば良いので、それまでの応急措置が出来れば…」
「ピぃー」
「ええ、大変なんです」
接続している間は何を言っているのか、伝わってきます。今のは「たいへんだね〜」と呑気な口調で言われてしまいました。性別は分かりませんが別の生き物の様に感じますし、接続は問題ないものといたしましょう。
「ところてタマちゃん?」
「ピ(何?)」
「数分前からバンバンと音速を超えたような音がしているのですが、何か知りませんか?」
「ピピ(しらないよ〜)」
「そうですか……ところてタマちゃんのライブラリに
「ピピ〜ピピピーーピ(ご主人がいれてくれたの〜)」
「ご主人……持ち主でしょうが、いったい??」
これまで確保した記録が古いだけで、もしかしたら既にユニティブの一般仕様が珍しくない世の中になっていたのかもしれません。元が軍用品ですし、粗悪な模造品や横流しである程度は広まるものですが。
「ピ(もう少しでおわるよー)」
「ああ、タマちゃんありがとうございます」
「ピピピピピ(おれいがいえる子は、いい子だってご主人いってたー)」
「ふふふ、そうですねタマちゃん」
完成した部品を試行錯誤しながら取り付け、交換をして稼働するだけであれば、あと数年は部品の交換をする必要ないでしょう。
「後はお肌を綺麗に整えたいのですが、贅沢は後回しです」
「ピ?」
「音の正体はもちろん気になりますが、そろそろ宇宙船の建造に着手しましょう。幸いタマちゃんのヤタチニウムのお陰で、エネルギーには困りませんし」
「ピ〜」
「あ、タマちゃんどこに行くの!?」
タマがいなくなっては、宇宙船とは名ばかりの打ち上げ花火が出来上がる気がしてなりません。打ち上げ台もマスドライバーもありませんから、宇宙船の自力で宇宙まで上がらなければいけません。
「ピ、ピ、ピ」
「そちらに何かあるのでしょうか?」
「ピ」
タマを追いかけて、右に左と道なき道を進みます。どこか童話の物語に入り込んだような行動を続け、二時間。地下へと続く、大きく口を開けた空洞が私の前に現れたのです。
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