間休話3 うたたねひびく

 ガラッ。倉庫棚の荷物が崩れる音に、作業中の手を止めて視線を送った。


「結構、揺れますからねぇ…あら珍しい……MDミュージック・デバイスですね」


 MDはプラネットミュージック社が製造販売していた音楽再生機の一種で、あらゆる機能が詰め込まれたマルチタイプの製品とは異なり、完全に音楽の為のツールです。


 音楽再生はもちろんの事、作詞、作曲、カラオケ機能、全国の音楽を再生数別につけられたランキング確認機能、音楽に関わる全ての記録が詰まっている優れた機器なのです。


「作曲なんて世界中の楽器のデータが入っていますからね。……折角ですから、何か」


 デバイスなエネルギーを注ぎ、MDを起動する。記録されていた音楽データから『世界よりあなたへ』を再生する。柔らかい女性の歌声が室内に響き渡る。


「綺麗な声。…なんだかぽかぽかします」


 電子生命体に温度を感じる器官は存在しない。ガイドノイドの体も気温を計測する機能はあっても、触れたものを温かいと感じることはできない。


「なんだか、いい気分ですね……」


 音が重なり合い多くの人と分かち合う。心を持つ者全てに等しく心の中に降り注ぐ、それはとても素敵な奇跡なのかもしれません。


「…ふふ〜ん」


 やがてひび割れた歌声が、静かだった室内に響くようになるのは数秒後のお話。


「折角のMDですし、私も一曲位……」

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