第9話 見つけたよ

 制御に成功した大型車を乗り回し、目的地であるスマイルマイル社への旅路を走っていた。相変わらず運転席のドアは行方不明のままであったが。


 今は大人しくなった大型車には、重大なErrorが発生していました。この大型車は単純化された算譜プログラムによって動く自動運転システムが搭載されている。何かの拍子で起動したのか、エンジンが動いている状態で放置されていたのかは不明ですが、やがてバッテリーの残量が減り始めた事が原因で暴走を始めた。足りなくなった電力を補う為に車輪を回し、電力の確保を目的に動き出したのである。これはバッテリーの残量が、一定以下にならないように組み込まれた算譜がErrorを起こした結果だった。


 結局は私のエネルギーを注入することで事なきを得ましたが、二度と同じ様な事態が起きないように算譜を抹消し、私が直接操作することで運用しています。欠点は私のように自分と車とを接続しなければ誰も操縦できない事ですが、私以外に使用者は存在しないので問題はありません。


 目的地のスマイルマイル社は、ガイドノイドの生みの親であるランスタッグマイルズ社の子会社で、いわゆる下請け業務を担当する会社の一つです。主な業務は金属製品の作製ですが、完成品の納入を求められる事も多いのか、会社の倉庫には他会社の製造した部品も多く、最後の仕上げを自会社で行えば良いので、生産ラインを確保できない物は積極的に仕入れていたようです。


 会社の実態はともかく、私が求めているのはガイドノイドの交換部品。綺麗なお肌は恋しいけど、ボロボロの中身を直さなければ意味がない。


「…雲、見当たりませんね」


 運転時の楽しみは景色と相場が決まっています。荒廃した街を眺めるよりはと空を見上げるも、一面が青白いだけで、そこには面白いと思える景色はありません。


 移住の際にクブアから多くの水資源が持ち去られたのでしょうか。


 車を転がして数時間、倒壊した建物を迂回したり、進化の系譜を想像できない生物を避けたりしていたせいで到着まで余計に時間が掛かってしまった。


「流石に完成した製品は残っていませんね…。あ、作成途中で未完成の部品は残って…いませんね。引き上げる時に、全てを持って行ってしまったのでしょうか?」


 本命の物はではないのですが、有ったら良いなと期待する程度には、手に入ったのなら有り難く貰って帰っただろう。


 記録に残っている既製部品も同じく、全て運び出された後の様子。既に箱詰めされていただろう部品を運ぶのが難しい理由もなく、予想の範疇の出来事です。


「さぁて…本命の製造ラインちゃんは無事でしょうかね…?」


 私がスマイルマイル社に来た一番大きな目的。それは頻繁に移動する部品や材料では無く、それらを製造する工業設備にあったのです。


「ああ、有りました。製品と違って簡単に移動できない物ですから、可能性は高いと踏んでいましたよ。あとは…私の記録を元に修復して素材集めをするだけです!」


 恐らくは百年近く放置されていた物だと思いますが、交換部品の製造一回に耐えてくれるだけで、十分に有り難いのです。手を入れれば一度くらいは動かせるハズです。


「…ピ、ピピッ!」


 唐突に工場内に響く電子音。パルスを発するかのような高い音が、私の独り言を追いかけるように続きます。


「誰ですか!?」


 私のように自我を確立した新しい生命体が誕生した可能性は否定できません。何しろ私という前例が既に存在するのですから、私の同族が現れたとしても不思議ではありません。


 ましてや、その体がガイドノイドである保証など欠片も存在しないのです。


「ピピ?」

「青い……球体?」


 今回の探索も一筋縄では行かないようです。


「ピッピ〜♪」

「何なんでしょうか?」

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