第5話 遭遇
闇、闇、闇。どこを見渡しても光のない暗闇。幸にもガイドノイドには災害対策として、避難誘導に必要となる照明や暗視機能が常備されている。悲しいかな、このオンボロボディは照明機能が故障して使い物にならないのだけれど。
ジャリジャリ、コツコツ私の足音が、やけに響いて聞こえる気がする。かつては重い荷物を載せられた金属製の頑強な棚も、錆が侵食していくつか崩れ落ちている。
「……」
地下室なだけあって、私以外の何かが動いている音や振動はない。棚と棚の隙間を縫うように確認するが、動くものは何もなかった。
「…クリア、と言うのでしたか。一先ずこの階は安全なようです」
残された貴重な物資はとても気になりますが、地下から地上へ。壊れて動かなくなった昇降機の屋根に登って、上の階に進みます。
「空気が美味しい…なんて呼吸機能は搭載されていないのだけれど…」
小声でぼやきながら恒星の光に晒される。空から降り注ぐ光が、見通しの悪い倉庫の様子を教えてくれる。混擬土の床に空いた穴は、目覚めた小部屋に繋がっているのでしょうか。
光源があるだけでなんとなくホッと気が緩む。暗視機能に不具合はないけど、年月の経過で劣化したこの身体は、いつどんな不具合が起きても不思議はないのです。
「!」
気の緩みを狙ったかの様に、辺りに瓦礫が崩れる音が響いた。咄嗟に物陰に隠れようと辺りを一瞥し、荷物の積まれた倉庫棚の影に隠れる。地下とは違い、柱や倉庫棚に当てられた光によって明暗が生まれています。
崩落した穴から入り込んだ光が、揺れ動く影を投影してくれています。
金属が擦れ軋む音で空気を揺らし、一歩また一歩と近づいて来ています。緑と銀のツートンカラーに染められた身体を揺らし、
貨物運搬用ロボット「
こんな所にいるのだから、倉庫の持ち主であるフィールドワーク社が購入、管理、運用していた機体のどれかなのかも知れません。
(稼働している機体を確保できないのは惜しいけど、安全が最優先だものね。せめてデータだけでも吸い出したいけど……無理か。どんなウイルスを持っているか分かったものじゃない)
インフィルがレーザーカッターの射程ギリギリに入るまで、見つからない様に今できる最大限に音を殺し、機を見て飛び出します。
バシュ、バシュ。短い射出音が連続で吐き出され、次々とインフィルの足にプラズマの刃が打ち付けられる。
「思ったより硬い!」
必死な思いで銃爪を引けと、なんども指先に命令を出し続けています。焦り、不安、機械らしくない生物的な何かに駆られて。
インフィルがそんな私に気が付かない理由はない。機動力に劣るとはいえレーザーカッターの射程は長くはない。近づかれる事があれば、持ち前のパワーで私の体を容易く破壊するだろう。ガイドノイドの身体は戦うためにあるのではないのだから。
「……!」
腕を伸ばしたインフィルが駆出す。
「いい加減に壊れろ!」
何発目の刃がやり遂げたのか、伸ばした腕が顔に触れる前にインフィルの左足を切断した。足を失ったインフィルは、バランスを崩して勢をそのままに倒れます。足に向けられていた照準が外れ、それでも撃ち出され続けていたプラズマブレードがインフィルの顔に命中。
「…っ」
装甲で弾けるプラズマブレードが跳弾し、部屋の方方に傷跡を作ります。
両腕をガンッガンっと床に叩きつけジタバタと接近する様子は、インフィルの構造上不可能な匍匐前進を想わせる。
「このっ!」
移動する速度が遅くなっただけ、私を容易く破壊できるパワーは顕在。そんな思考がさながらノイズの如く通り過ぎました。
他のことを考えている余裕ができたのは、あたりに飛び散ったインフィルのオイルが乾き切った後になってからでした。
気が付けばレーザーカッターの射出口は赤熱し、飛び散ったオイルにプラズマが着弾したのか、いくつかの小さな炎が踊っている。インフィルの形は完全に無くなっており、周囲には廃材としか言いようのない部品だった物が転がっています。
「いき、残った…」
戦利品特になし、敵一体に対し冷静さを欠き増援に対処するだけの余裕もない。しかし、私は生きている。
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