第3話 地下倉庫でゴソゴソと
人類が宇宙に旅立ち、既に交渉が可能な相手がいない事に全身が機能を停止させた。今思い返せば危険地帯で実に愚かな行いである。
その事実に気付き、怯え、姿を隠しながらコソコソとフィールドワーク社の地下倉庫に逃げ帰ってきたのだ。
「あ、危なかった…そうよね。廃棄同然で離れる星だもの、置き見上げにどんな実験していっても可笑しくないわ。生物兵器とか殺人ウイルスだとかビックリドッキドキメカとか……」
人類の殆どが星から離れたとしても、人の移動にはどうしても纏まった時間がかかる。その時間を使えば大半の価値ある物品を惑星から運び出せたはずである。この地下倉庫に眠っていた最高級ガイドノイド持ち出すぐらい容易い時間が。
「私が持ち出されなかったのは、もう型が古くて要らなかったとか…優先順位が低くて後回しにされている間に引き取れに来られなかったか…」
出したままの恒星発電機を身体に繋ぎ、雫の滴るようなもどかしい給電を行う。
「お、落ち着けぇ。私ぃ…ウイルスや感染はプログラム製以外はきかない。最優先は安全の確保だから、拠点…そう安全な拠点。セーフハウスを作らないと…」
地下倉庫の外は安全を確保出来ていない。地下倉庫の中も全て確認できている訳では無いが、自分が梱包されていた小部屋。天井に空いた大穴こそ心許ないが、現状唯一食事のできる安全なエリア。
「あー、誰かにあって身体の修理を頼むつもりだったのにぃ…」
発電機を日当たりの良い場所にそっと配置して、他に使えそうな物がないか錆て崩れた倉庫棚をゴソゴソと漁ってみる。
「原型のわからないジャンクばかりね。よく発電機が無事で…ああ、宇宙船用の緊急発電機のジャンク品ね。発電パネルが無事だから、なんとか給電できる…蓄電機能が壊れていなければ良かったのに…」
宇宙に於いてエアとエネルギーが無くなるというのは死を意味する。一般的な民衆が高価な宇宙船を所持するのは比較的珍しく、小型船を所有している者は数の多い連合国の富裕層。全体で見て
「…もしかしたら、
ガイドノイドの活用は幅広い。主流こそ
「ガイドノイドに小型宇宙船の緊急発電機。もしかしたら、どこかの大富豪がお金に頼ってかき集めたのかしら…。だったら小銃ぐらい用意していそうだけど…」
掘り出した物の中には、非常食のつもりだったのか『フードパック』のパッケージに「百年品質保証!」の煽り文句が虚しく踊っている。私の食事は機械を動かすいくつかのエネルギーであり、生物的な食事を必要としない。仮に食べる事が出来たとしても、百年以上経過しているかもしれない食料を食べたいかという話だ。
他にやる事も無いので、懲りずにジャンクの山をひっくり返す。地下にあったおかげか、原型がわからないほど壊れている物は少ない。
「……船外用工具。頑丈ね…このまま問題なく使えそう。船外用だけあって、なかなかの出力ね…生物や小さなマシン相手なら仕留められるかも知れない」
見つかったのは工具箱に入っていたと思われる数点の工具。人間の皮膚から宇宙船の装甲までパワー調節次第で何でもカットするレーザー式の切断機『レーザーカッター』。あらゆる金属の溶接を目的に作られた燃料式溶接機「ファイアーテクスチャ」。宇宙での応急措置と言えば補修パテ、どんなスラッグも高温で溶かし、液体金属から簡易補修パテを作り出す「パッチワーカー」。
レーザーカッターは銃、ファイアーテクスチャは火炎放射器の代用品として、申し分のないほど取り扱い注意な工具たちだ。しかしファイアーテクスチャは、肝心の液体燃料がないのだからいかんともしがたい。今のところはレーザーカッターも使う対象が不在なので、せっかくの工具だけれど仕事がない。
安全が確保出来ている今の内に、発電機へ接続しエネルギーのチャージをしておこう。私の体内エネルギーは満タンとはいかないまでも、数時間程度は枯渇しない程度には溜まっている。
出来る事ならしばらくの間は、この地下倉庫をセーフハウスとして運用したい。工具で分解やジャンクを組み合わせて、必要な設備と安全な拠点を実現したい。
「う~ん……あれ、もしかして宇宙船のエンジン!?」
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