第2話 ガラクタ少女

 ギギギっと軋む体を庇いながら、なんとか廃材の下から這い出る。エネルギー反応に惹かれて、誘蛾灯の蛾のようにフラフラと潜り込んだ結果、案の定廃材の隙間に圧し潰された。幸いこの体の大部分がで作られているお陰で被害らしい被害はない。


「なにかと思ったら、小型車のバッテリー…使えない訳じゃないけど、ちょっとねぇ」


 見た目以上の重量を持つ小型パワーバッテリーを軽々と持ち上げる姿は、流石フィールドワーク社が誇る最新型ガイドノイドと言ったところだ。惜しむべくは長期間放置された事に由って、身体を覆う人工皮膚が劣化し、美しい女性型であった身体ボディがホラータイトルの世界に放り込まれたとしても違和感のない恐怖を振り撒く。ホラー世界の住人としてみても遺憾なく潜在能力を発揮したことだろう。


 元々のと言えば艶々と美しいストレートロングの髪、身長が百三十二cmで空色の瞳が印象的ないたずらっ子なやんちゃガールなお顔の美少女をしていたというのに。今の私は美の一文字なんて見る影もなく、まばらな長さに消失した毛先に放置されて汚れ放題。あげく身体は皮膚なしボロボロのError祭りである。


「…ダメね。話声どころか、物音一つ聞こえない。私の集音機能が壊れている訳じゃあないわよね…」


 そんな彼女が目覚めて最初に行ったのは食事であった。機械の体に見合ったエネルギー摂取である給電である。彼女がいたのはフィールドワーク社の地下保管庫であり、幸にも出荷前の製品が多く残されていた。当然天井には地上まで続く大穴が空いており、多くの製品は使い道のないスラッグの如く鉄くずとなっていたが、その中から恒星発電機を身体に接続する事で九死に一生を得たのだ。


 落雷の影響で奇跡的に起動したは良いものの、すっかり古くなった身体ボディにエネルギーがそう残っている訳もなく、危うくエネルギーの枯渇で永眠するところであった。


「はー、せめて何かログを漁れる物とかないのー?」


 ある程度の時間を食事に費やし、周囲の状況が知りたいと目覚めた場所から飛び出した。服どころか皮膚もない機構丸出しスタイルで練り歩く姿を製造当時の人間が見ていたら、素晴らしい速度で通報されていたに違いない。


 科学の進歩が進み、様々な生活用品に電子機器が使われる様になって久しく。探してみようとするまでも無く視界に入る様なごくごくありふれた様な物たちだ。それが見当たらない。


 崩壊した街の様子から、ある程度の時間が経過しているとは読み込めていた。ガイドノイドの体に備わっているインストールされた知識データを元にそれっぽい人格をでっち上げたが、そのデータは出荷前の新品ボディに入っていた代物。現代では間違いなく骨董品レベルであり、少しでも情報を入手し、アップデートもしくは最適化を試みなければならない。


「使えそうな部品はネジ一本でも貴重だものね。ああ…カバンか何か入れ物を先に探すべきかしら?」


 次第に独り言が増えてゆく、独り言なぞエネルギーの無駄な上にスピーカーの消耗を招く。まさに自分の首を自分で絞める愚かな行為に違いないのだけれど、実に生命体らしい不合理な行いに気分が上向くのを自覚する。


 ガイドノイドとして生まれた私に名前は無い。過去に付けられた製造番号こそあるものの、それはあくまで身体ボディに紐付けられた管理番号に過ぎない。


 現在の電子生命体として産まれた私にとって、身体とは換えの利く入れ物に過ぎない。もっとも現在の状況では、そんな贅沢が許される理由もなく身体はガラクタボロボロの状態である。


「あー、監視カメラ…最終記録は連合歴七十六年?」


 私の体が作られたのが連合歴四十一年の氷結期なので、撮影日から三十五年。建物の原型がわかる程度の劣化、もしくは崩壊したとして材質から建てられて百年以上経過していると見られる。ガイドノイドは歴史的建物の年代聞かれたり、化石の発掘のツアー等幅広い案内人としての機能が備えられている。最高級ガイドノイドである私のボディどころか、一般的なガイドノイドであっても年代測定など標準装備が当たり前である。


「最後の映像記録の後に建物が建てられたとは、ちょっと考えにくいよね…」


 その後、携帯端末から情報を吸い上げた私は放心と言うなの強制スリープを体験することになった。

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