第18話 ヒント編

 自宅に到着して目当てのテレビ番組をリアタイ視聴した後も、俺は釈然としない気持ちだった。


 ――俺がホテルを出てからタクシーに乗るまでに起きた時間の巻き戻り。あの現象は一体何だったのか?


 俺は小林こばやしに電話をかけて確かめることにする。


「小林、今何時だ?」


「……時報なら117だぞ」


 俺は我が身に起きた奇妙な体験を小林に話した。


「私の腕時計は電波時計だから、時間が狂うことはまず考えられない。現に今も正しい時刻を表示しているしな」


「……だとすると、タクシー内で流れていたラジオがおかしかったってことか?」


 ――そこで、俺はふと閃いた。


「そうか、あのタクシードライバーは何か重大な犯罪、たとえば殺人を終えた後で、アリバイを作る為に過去のナイター中継を車内に流していたんだ。8時の時報を客に聞かせる為に!!」


「……あのな鏑木かぶらき、お前が乗ったタクシーはお前の自由意志で偶然選んだのだろう? だったら何故そのタクシードライバーは、お前が時計を持たずスマホも使えない状況だったことを知っているんだ?」


「……あ」


 録音した時報で偽のアリバイを作っても、客が時計かスマホを持っていればすぐに嘘が露見してしまう。それでは全く意味がない。


「私の時計は狂っていないし、タクシードライバーも殺人犯なんかではない。もっと単純な見落としがあるだろうが」


「…………」


 どうやら小林には既に答えがわかっているようだ。


「そうだな、ヒントは今日がだったということだ」

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