第14話

 ――まぐれだ。ただの偶然だ。


 俺はを使うことで、相手の手札を丸裸にすることができる。だが、このイカサマには一つだけ重大な欠点がある。


 それは、こちらが「ダウト」をコールする前に叩かれたときに対処できないことだ。


 ――その隙を突かれた。


 だかしかし、小林こばやしが「ダウト」を成功させたのは単なる偶然。俺が勝負を仕掛ける前に、運否天賦うんぷてんぷで一矢報いたに過ぎない。

 ならば、今度は向こうが仕掛ける前にこちらが仕掛ければ何も問題はない。


「服部さん、次は十万でお願いします」


「……オーケー。受けて立つ」


「でもこのゲームってあれですよね。何というか、名前負けしているというか、全然即死じゃなくないですか?」

 小林がニヤニヤ笑みを浮かべながら言う。


「……何が言いたい?」


「即死ダウトというくらいなんですから、何時までもグダグダ続けるのはゲームの魅力を損なっている気がするんですよ。ここまでお互いに一勝一敗。次で決着を付けましょう。やっぱり賭け金は五十万でお願いします」


「…………」


 偶然一度勝てただけで調子に乗りやがって。


「オーケー、わかった。次で決着だ。後悔しても、もう遅いぞ」


 俺は新品のトランプを取り出すと、小林に改めさせる。それからジョーカーを抜いた52枚のカードをよく切って、四つの山に分ける。


 俺の手札は♡A、♢2、♡3、♢3、♣4、♠5、♡5、♢6、♠7、♡7、♢9、♣Q、♡K。


 幸いなことに、先攻でも後攻でも暫くは安全圏だ。絵札に変わる前に息の根を止めてやる。


 俺は余った二つの山を重ねると、ズラリとテーブルの上に一直線になるように広げる。

 この中から一枚ずつ引いて、数が大きい方が先攻後攻の選択をすることができる。


 俺が引いたカードは♢K。小林は♣J。


「後攻を選択する」


 俺はこのとき既に、イカサマによって小林が5のカードを持っていないことを把握していた。これでもう俺に負けはない。


 一方の小林は、さっきと同じようにあまりカードを集めて灰皿の中で焼き始める。


「…………」


 既に勝敗は決まっている。今更何をしたところで無駄だというのがわからないらしい。


「ゲーム開始だ」


「1」


 ――最後はきっちり「ダウト」をコールして勝ってやる。


「2」


 ――精々アホ面さげて破滅へのカウントを唱えていろ。


「3」


 ――さあ、もうすぐだ。


「4」


 ――小林、お前の負けだ!!


「5」


「ダウト」


 俺は小林が場に伏せたカードをひっくり返す。

 そこに現れたのは♢5だった。


「……な、馬鹿なッ!?」


 小林が5のカードを持っていなかったことは確かにこの目で確認した。間違いない。


 ――それなのに、何故ここに♢5があるのだ!?


「言ったろ鏑木かぶらき。成功体験に縛られた人間を負かすのなんか、落ちてる金を拾うのとそう変わらないとな」

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