第13話

 俺は目の前で負け惜しみを言う小さな少女に改めて視線を向ける。


 ベリー・ショートの髪に生意気そうな吊り上がった瞳。

 セーラー服を着ていなければ、男の子と間違えたかもしれない。


「…………」


 鏑木かぶらきがわざわざリベンジに来るくらいだから、少しばかり警戒していたのだが、何のことはない。ただのガキだ。


服部はっとりさん、次は五万でお願いします」


 ――ついさっき負けたばかりだというのに、このガキはいけしゃあしゃあと……。


「オーケー、お望みとあれば何度でも相手してやるよ。ほれ、新しいトランプだ。さっきと同じように四つの山にしてくれ」


 54枚のトランプを裏にした状態で四等分に分け、俺と小林がそこから一山ずつ選んで手札にする。


 俺の手札は♡2、♣2、♠3、♢5、♢7、♠8、♣8、♡9、♢9、♠10、♣J、♡Q、♣Q。


 余った二山を広げてそこから一枚ずつ選んで先攻後攻を決める。


 俺が♢Kで、小林が♠J。


「じゃあ、今回は俺が先攻だな」


「すみません、ちょっと待ってください」


 すると何を思ったか、小林はマッチを擦って火をつけると、灰皿に投げ入れる。そして先程広げたあまりのカードを纏めて、灰皿の中に入れてしまう。


 ――当然、火はトランプに燃え移り、灰へと変えていく。


「……何のつもりだ?」


「いえ、この行動には特に意味はありません。でも、もう必要のないカードなら燃やしてしまっても構わないですよね?」


「…………」


 ……馬鹿が。

 何を勘繰っているのか知らないが、見当違いもいいところだ。そんなことをしても何の意味もないことをわからせてやる。


「1」


「ダウト」


「……え?」


 ――今、何が起きた?


 小林の腕が伸びて、俺が伏せたカードがくるりと反転して晒される。


「おやおや、♣2ということは今回は私の勝ちのようですね、服部さん」


「…………」


 目の前の得体の知れない少女は、凶悪な笑みを浮かべていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る