凍ったケトル
第5話
ジンジャーエールに氷を入れようと冷凍庫を開けると、どういうわけか電気ケトルが丸ごと入っていた。
「…………?」
意味がわからない。
電気ケトルは説明するまでもなく、お湯を沸かす為の道具だ。その電気ケトル(と中の水)を、何故わざわざ冷凍庫に入れて凍らせる必要があるのか?
――さっぱり意味がわからない。
だが、こんなことをする人間は一人しか考えられなかった。
俺の助手にして、名探偵である
その小林はというと、日曜の午前中なのを良いことに、事務所のソファに寝転がってテレビを観ている。今、放映されているのは古い時代劇のようだった。
小林が何の目的でこんな訳のわからないことをしているのか、少し気になった。
本人はすぐそこにいるのだから訊けば答えはすぐにわかるのだが、何となくそれは
普段、小林から散々バカにされている俺としては、小林の目論見を自力で看破して鼻を明かしてやりたいところだった。
しかし、考えてみても妙案は浮かんできそうにない。
逆ならわかる。ロックアイスを作る場合は一度水を沸騰させて、空気などの不純物を除去してからゆっくり凍らせる。そうすることで、透明度の高い溶けにくい氷を作ることができるのだ。
だが、
一度凍らせることで、溶けた水の口当たりや味が変化する? ……
――ダメだ。さっぱりわからない。
「
俺がキッチンで頭を抱えていると小林がやって来て、冷凍庫から電気ケトルを取り出した。そしてそのままコンセントをさして湯を沸かそうとするではないか。
「……おい小林、ちょっと待て。何で電気ケトルを冷凍庫に入れているんだ?」
俺が尋ねると、小林は何故か急に不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「ふん、そんなの湯が沸くまでの時間を待ちたくないからに決まっているだろうが」
「…………」
理由を訊いても少しも意味がわからなかった。
電気ケトルの中の水を凍らせてしまったら、当たり前だがその分沸騰するまでに余計に時間がかかってしまう。
――そして、どうして小林は急に機嫌が悪くなってしまったのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます