第36話 メルエムの森にて1
「ここがメルエムの森か」
拠点を出発して二日が経った頃の事。
俺達は目的であるメルエムの森へとたどり着いた。
「とりあえず、光学迷彩を起動しておくよ。私はここで少し寝るが、私が寝ている間もノアズアークは維持できるから安心してくれたまえ」
レオナはそう言うと、自分が座っている席をウィーンを動かして寝る姿勢に入った。
俺達はその間にノアズアークに内蔵されている小さな談話室へ移動した。
ロレンが人数分の飲み物をコップに注ぎ、おのおのに渡してくれる。
「これから俺達が行うのは、噂を信じ、ロウヒに助けを求めるためにこの森に入った人が居るかどうかの調査だったな。具体的にはどう動く?」
「はいは~い!!私のトモダチが任せろって言ってるよ~~!!」
コップの中に入っている液体をちゃぷちゃぷと揺らしながらラファが手を上げる。
まぁ、ドラゴン退治の時も標的を見つけたのはラファだったしな。
フレンドールの力はこういうシチュエーションにはもってこいだ。
「そうだな。ラファのトモダチに探してもらって、発見出来たら俺とミケラでその場所へ行くってので良いんじゃないか?」
「いや、僕様的にはその方法はアウトだ」
俺の発言にミケラが釘を刺す。
「どうして?」と聞くとミケラは一旦コップの中身を飲み干してから理由を話した。
「噂を追って調査に来るのは僕様達だけでなく、敵も同じだ。相手がどれほどの人数を揃えて来るのか分からないが、フレンドールの力があれば物量で押されるリスクを回避することが出来る」
「つまり、ラファの力は対抗策として温存しておきたいという事か」
「その通りだ。しかも、今回は前のドラゴン退治とは違って時間の猶予がある。この人数で調べるだけで十分だ」
ミケラがそう言うと、ロレンが俺達に一つの紙を配り始めた。
これは、ここら一体の地図みたいだな。
「ここを中心として二組に分かれ、森を探索するとしよう。こちら側を僕様が担当する。ふたりはこの方向の探索を頼むぞ」
◇
「全然見つからないね。人」
「まぁ噂を信じたとして、実行に移せる人間なんてそういないだろうからな」
ラファとそんな話をしながら森の中を探索する。
あれから1週間ほどが経ったが、進展は全くと言って良いほどない。
結構な範囲を捜索してるはずなんだけどなぁ。
まぁ、敵勢力ともかち合って無いのは幸運だけど。
「う~ん。今日は誰かと会えるって予感がしたのに」
「ここ毎日それ言ってるじゃねぇか。その予感あてにならないぞ」
「いや、今日こそは誰かに会える。私を信じて」
フフーんと自慢そうにしているラファを見るのもこれで何回目だろうか。
あと、クッキー食べながらしゃべるのやめなさいよ。
というか、ロレンが居てくれてホント助かった。
毎日ご飯は美味しいし、ノアズアークに帰ってからの住みやすさも良いし。
本当に森にこもって任務しているのか分からなくなりそうだ。
「もうボチボチ日も暮れそうだけど、どうする?」
「もうちょっと探そうよ。私、さっきクッキー食べたおかげでエネルギー満タンだし、良い予感するから」
「そっか。それじゃぁ、あっちの方に行ってみるか」
「りょ~かい~」
俺が指を刺した方向にラファが歩いていく。
クッキーを食べて上機嫌なのか、鼻歌なんて歌いながら。
「呑気だなぁ」
「暗いより楽しい方が良いでしょ?ってわぁ!!」
突然ラファの体が地面に向かって倒れる。
森の植物に足を掴まれたらしい。
「いててて」
「おいおい大丈夫か?」
「うん、平気!でもローブ汚しちゃった」
ラファの手を掴んで彼女の体を起こす。
やれやれ、これじゃ一体どっちが年上か分からないな。
「まぁロレンが綺麗にしてくれるだろ。帰るまで我慢だな」
彼女にそう声をかけた瞬間だった。
かさり、と植物を踏む音が聞えて来たのだ。
「ラファ、今の音」
「うん。聞こえた」
音の主は動きを見せない。
逃げる事も無く、じっとこちらを観察しているのだろう。
「どうするべきだと思う?」
「う~ん。もしかしたら私達と同じ、ロウヒちゃんに助けを求めてる人かもしれないし。声かけてみるのが良いと思う」
「まぁ、そうだよな」
そんな会話を交わした後、俺達は音がした方へ体を向ける。
出来るだけ警戒されない様にと心がけながら、俺は第一声を放った。
「魔女の噂を聞いてきた人か?」
辺りにシンと俺の声が響く。
音の主からのレスポンスは無い。
そんな状況の中、俺に続いてラファが声をかける。
「私達は仲間だよ~。ロウヒちゃんの所に来れば、きっと君達も楽しい生活が出来ると思う!!」
「……やっぱりだ」
やっぱりだと言う声と共に、ガサガサと足音がなる。
そして、修道服を着た女の子と牧師の服を着た男の子が俺達の前に姿を現した。
「やっぱりラファお姉ちゃんだ!!」
「ほらな!!あの声はラファお姉ちゃんじゃないかと思ったんだよ!!」
「え?はい??」
姿を現した子供たちは、俺が疑問を口に出す前にダー!!と走り、ラファの体に飛びついた。
「うわぁぁぁん!!会いたかったよ~」
「俺達の事覚えてる??」
え、なに??
知り合いの子なの??
めっちゃ泣きながらラファにしがみついてるし。
「知り合いの子か?」
「もしかして……カイ君とベルちゃん?」
ラファが二人にそう問いかけると、彼等は嬉しそうに「そうだよ!!」と答えている。
そして、「大きくなったねぇ」とここぞとばかりに珍しいお姉さんムーブをかますラファ。
なんか、俺だけ蚊帳の外だ。
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