第35話 移動要塞 ノアズアーク
「やぁやぁ皆、お待たせしたね」
「いや~きっと皆驚くと思うよ~」
メルエムの森の噂の調査を行う作戦実行の日。
俺達は【ドールカルト】の拠点の入り口ともいえるあの門の前に立っていた。
目の前には、ぼっさぼさの髪の毛のまま目を輝かせているロウヒとレオナの姿があった。
だけど、そんな二人より目を引くものが一つ。
「これが、例の乗り物か」
「ああ、そうさ。異界の神秘を再現するアーミードールの力と、ロウヒ氏の持つ魔女の知識をフル導入して作成した、水陸空対応の移動要塞さ」
真っ黒な鉄で出来たそれを指さしてレオナは自慢げに眼鏡を光らせた。
「いつもレオナちゃんは小難しい名前を付けてるけど、今回は私も制作に関わったということで、縁起のいい名前を用意しました」
ジャジャーンと言いながらロウヒは紙をバッと開いた。
そこには『ノアズアーク』と言う文字が刻まれている。
「これは、私が尊敬する太古の魔女の逸話からとった名前なんだ」
「太古の魔女。ふん、この僕様でも分からない事があるなんて驚きだな」
「こ~ゆ~話はダンテ好きだったよね」
ロウヒの言葉に首をかしげるミケラとラファが俺の事を見みつめる。
ノアズアークねぇ。
ど~しよう困った。
記憶にない言葉だぞ。
魔女の事が書いてあった歴史書には全部目を通したはずなんだけどな。
「俺が知らない歴史の話だな」
「無理もないよ。私が子供の頃に見つけたボロボロの歴史書に書いてあった魔女の話だもん」
「800年前でボロボロでごぜ~ますと、現在残っている可能性は限りなく0に近いでごぜ~ますね」
今の歴史書にその記述が継承されていない事を考えるとロマンがあるな。
この作戦が終わったら、ロウヒにその魔女についても教えて貰おう。
「さて、話を戻そう。このノアズアークには、一番の目玉機能があってね」
レオナはそう言うと、アーミードールをグイッと操作した。
すると、ノアズアークの色が変化していく。
「消えたよ!!さっきまであそこにあったのに」
「いや……これは透明になっているのか。でも、僕様の知っている透明化スキルとは何かが違う」
「ええ。私の視点から見ても、透明化スキルとは違うものであると断言できるでごぜ~ますよ」
「だったら一体ノアズアークはどういう原理で消えてるんだよ」
俺達の戸惑う声を聞いて、レオナはフフフと怪しい笑みを浮かべる。
あいつ、この状況ちょっと楽しんでるだろ。
顔に出てるぞ、顔に。
「これは、七背が一柱である妄信の賢者ヴォイニッチが手記に残した異界の神秘の一つさ。その名も光学迷彩と言うらしい」
「光学迷彩??」
「ああ、周囲の景色と同じ映像をノアズアークの表面に映して環境に溶け込み身を隠す技術さ」
なるほどな。
この光学迷彩があれば、敵から身を隠すのに苦労しない。
今回の作戦にうってつけだな。
「ノアズアークには、ロウヒ氏特性のポーションを内蔵していてね。私がノアズアークの操作室に縛られる事を条件に、アーミードールの永久的な使用が可能になる」
「姿を隠せて陸海空全部を移動できる拠点が使い放題……だいぶ無法だなそれ」
しかも話を聞いてる限り、ノアズアークはヴォイニッチとロウヒの知識をふんだんに使った傑作だ。
実質七背の詰め合わせセットみたいなものじゃないか。
そう考えるとめっちゃテンション上がるな。
「レオナが動けなくなるのは欠点だが、それを見越して僕様達はトレーニングを積んできたんだ。人数的に困る事も無い」
「それに、ロレンちゃんが毎日お世話してくれるから日々の生活も安心だね」
ミケラとラファがそうわちゃわちゃ言っていると、ノアズアークの扉が開く。
俺達は全員で顔を見合わせ、その中へ入っていった。
用意された席へ座る。
俺達は大きなソファーを少し改造した様な席に座るが、レオナは一番先頭にある特別そうな席に座っていた。
彼女の操るアーミードールはノアズアークの一部として組み込まれている様で、とあるスポットにピッタリと収まっている。
「皆、この作戦は今後の【ドールカルト】の為、ひいてはこの歪んだ世界を変える為の第一歩だ。だから頑張ってね!!」
ロウヒの声援がノアズアークの中で響く。
外の声を拾えるなんて高性能だなと感心しつつ、俺は窓の外で手を振っているロウヒに親指を立てるハンドサインを送った。
「目標はメルエムの森へ。定員5名確認」
レオナが詠唱を開始する。
それに合わせて、アーミードールが輝き、ノアズアークの起動音が鳴る。
その音が俺達の作戦開始の合図だった。
「ノアズアーク、発進だ!!」
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