第34話 果たして彼女は誰の味方か
ブレッシュ孤児院。
王都やその周辺の都市で発見された孤児達を集めて育てている国家運営の組織。
孤児院とは言っているものの、この場所は3つの宿と一つの大きな教会で構成されている。
親の居ない孤児達にとってはこの孤児院こそが世界の全てだ。
だからこそ、この世界に君臨する我らが主であるカグヤ様の思想を子供達に植え付ける事が可能なのだ。
この孤児院を卒業した人間は皆、各都市や村に配備される教会の管理者である聖女、または牧師になる運命を背負っている。
「今日は突然の訪問にも限らず、対応してくださってありがとうございます」
「いえ、お構いなく」
今私と対峙している修道服を着た女性もまた、この孤児院で育ち聖女となった人間。
彼女の名はマリーア・レメディオス。
「私の名前はレミール。この度、対黄金の魔女として結成された部隊の隊長を任命されました」
「そう……別にどうでも良い事だけど、この部屋は防音で声が漏れる事はないわ」
「えっと、いきなりそんな事を言われても……話が見えてこないのですが??」
「わざわざ取り繕う事は無いって言ってるのよ。女神様の使徒さん」
凛とした声で彼女はそう言った。
修道服の下からこちらの覗き込む彼女の目は何処か冷ややかなものだった。
「そのレミールって人も、体だけあなたに乗っ取られた形なんでしょう?」
「へぇ、驚きましたね」
「この孤児院の管理者も貴方と同じ女神様の使徒だからね。色々聞いたのよ」
この孤児院の管理を任されていたのは……ああ、あの人だ。
彼女がわざわざ自分の正体を喋るということはー
「あなた、随分の良い子に徹したんですね」
「……わざわざ名指しで私の所に訪ねて来たということは、ラファについて聞きたい事があるんでしょう?」
無駄話をするつもりは無いとでも言うように彼女はそう言った。
まぁ、ピリピリするのも仕方がないか。
なんせ彼女はこの孤児院から黄金の魔女ロウヒの元へ下ったラファ・トーンハウスと親しい人間であったのだから。
「貴方がラファと魔女がメルエムの森の方向に逃げたと証言したそうですね」
「そうよ。実際、魔女がメルエムの森に住んでるって噂も流れてるみたいじゃない」
「はい。私もその噂の信憑性は高いと考えています。しかし、ひとつ気になる事がありましてね」
私がそう鎌をかけると、マリーアはその眉をピクッと動かした。
私は噂の真偽を確かめる為、アッシュさんを始めとする人達で構成された部隊を率いてメルエムの森へ向かう。
うちの部隊には、魔女の被害にあった人達を中心に構成されている。
そして、部隊の人間の話を聞いていく中で……一つ、興味深い事実が浮かび上がってきた。
「魔女がどこへ逃げたかって話は複数ありますが、どれも曖昧でけっこうバラバラなんですよ。そして、貴方の報告だけが詳細が明瞭なんです」
「だから何?」
「それだけじゃありません。貴方以外の曖昧な報告は全て、不思議な事にメルエムの森とは全く関係の無い方向を刺しているんですよね」
「……」
「もし、貴方はラファ・トーンハウスが魔女と一緒に逃げる為の手伝いをしていて、彼女達の拠点が割れない様に虚偽の報告をしていた場合……噂の信憑性は一転して0。私達は魔女に隙を晒す形になってしまいます」
「随分と疑い深いのね。第一、私がそれをする動機は?」
「お友達のラファさんを助けたかったとか」
私の言葉に対し、マリーアはハァとため息を吐く。
あんな奴と同類だと思われるなんてバカバカしいと分かりやすい悪態をつきながら、彼女は修道服の袖をまくった。
そこにあったのは大量の傷。
ナイフで自分の腕を切り刻んだ時に出来た痕だった。
「私はね、自分に与えられたスキルにケチ付けた挙句、妄想の世界に逃げ込むラファとは違うのよ」
「その傷は?」
「私がスキルを行使するのに必要な代償よ。私は女神様から与えられたスキルと、それを活かす役目の為にこの身を捧げられる敬虔な信徒なの」
彼女の腕にある傷跡は数えきれないほどあった。
少し赤黒くなっている所もあってグロテスク。
そうしてそれは、彼女は女神様に与えられたスキルを最大限に生かしている証拠。
女神様の教えを守って生活している事の証明でもある。
「この傷を見れば分かるでしょう?私は女神様の統治するこの世界を愛している。それをおかしいと糾弾するラファも、この世界を壊そうとしている魔女も、反吐が出るほど嫌いだわ」
「……そうですね。それを見せられては、私も貴方を強く疑えません」
「ええ、貴方はそれで良いのよ。私の報告は女神に誓って正しいもの。魔女どもの拠点は必ずメルエムの森の中にあるわ」
絶対にね、と彼女は強く念押ししていた。
まぁ、客観的な証拠だけを見れば彼女が魔女とラファを嫌っている事は明らかです。
でもー
『それをおかしいと糾弾するラファも、この世界を壊そうとしている魔女も、反吐が出るほど嫌いだわ』
この言葉を放っていた瞬間だけは、彼女の声が酷く震えていたのが引っかかりますね。
彼女は敬虔な信徒ではあるけども、ラファへの未練を断ち切れていないのか。
それとも……私達を必死にだましながら魔女の味方をしているつもりなのか。
果たして彼女の本心はどちらなのでしょうね。
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