第33話 本当に地獄のトレーニングな奴があるか
「頑張れダンテ!!あと少しだぞ」
「私も最後まで一緒に走るから!!がんばろ~!お~!!」
ミケラの言う地獄のトレーニングが始まって早3日。
トレーニングって何をするんだろうと思っていたが、ふたを開けてみれば走り込みや組手などの基礎体力を上げる特訓の日々だった。
俺達、人形を操って戦うから意味無いんじゃないか?
そう聞いてみればー
『自分の体を満足に扱えるようになれば、人形を動かすときのイメージがより鮮明になる』とか
『肉体を鍛える事によって最悪自分で殴る第三の択が戦いで追加される』とか
『このトレーニングをすれば相手の体の動きの理解に一役買う』とか
そこそこまともな理屈で返されてしまった。
まぁそうなればミケラのトレーニングについていく訳なんだけど。
俺は元々村でギルドの職員……デスクワーク専門の暮らしをしていた訳で。
となれば運動神経が平均程度である事はまぁ当り前な訳で。
「ゼェ……ゼェ……ま、まだまだ全然余裕……だ」
俺が地獄を見るのもまた当然だった。
足はパンパンだし、肺は悲鳴を上げている。
それでも俺がトレーニングをギブアップしないのは、今隣に居るラファの影響が大きい。
いつもちょっと抜けてる感じのラファに負けたくない!!
俺のプライドがそんな声をずっと上げている。
あのラファがいつも通りのテンションでトレーニングしてるのに、俺だけ『キツイからギブアップ』なんて言える訳なかった。
ていうかラファの奴意外と体力あるんだよな。
一体どこで身に着けたんだよそれ。
「ダンテ頑張れ~。トモダチ達も応援してるよ~」
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!やってやろうじゃねぇぇかぁぁぁぁ!!!」
ギガントドールの真似をするように大声を上げながら俺はトレーニングのルートを走る。
大声を上げるのって、結構体に力が入るんだな。
◇
「疲れた~~!!もう限界!!体動かない~~」
「ゼェ……ゼェ……ハ、ハハ……俺は……まだまだ……」
拠点内にある草原の広場で俺とラファは寝転んでいた。
いや、俺に至ってはぶっ倒れてると言った方が正しいのかも知れない。
「二人とも、良く僕様のトレーニングに付いて来たな!!これで僕様達は3日前とは比べ物にならないぐらい強くなった!!どんな敵だって蹴散らせられる事だろう」
ミケラは相変わらず元気だ。
俺達と同じトレーニングをしていたはずなのに、息を切らさず高笑いする始末。
本当に同じ人間かよ……バケモンだ。
「さて、僕様はレオナの様子を見てくるとしよう。ロレン、二人に最上級の休息を頼むぞ」
「了解でごぜ~ます」
高笑いをしながら遠ざかっていくミケラと入れ替わる様にロレンが現れる。
彼女は背中の棺桶からメイドールを顕現させると、最初にラファに声をかけた。
「ラファ様はここでマッサージを行うでごぜ~ます。メイドールが全て自動で行うので身を任せてくだせ~ませ」
「わ~い。ゴロゴロ~」
ラファはそう言うと、ころころ転がってメイドールのいる場所へ移動。
メイドールにマッサージしてもらっているラファの姿はまるで大型犬の様だった。
「ダンテ様は、こちらのドリンクをゆっくりお飲みになって安静にしてくだせ~ませ」
「お……おう」
俺はそれだけ言うとゆっくりと体を起こし、草原の上で座りながらそのドリンクを飲んでいた。
そんな俺の姿を見て、ロレンが柔らかな顔で笑う。
ロレンにしては珍しい表情だ。
「どうしたんだ?」
「いえ。ダンテ様が昔のミケラ様に似ていましたので、その時の事を思い出していたのでごぜ~ます」
「今の俺がミケラに?」
「はい。ミケラ様も一番最初にこのトレーニングを受けた時はグッタリされてごぜ~ました」
ロレンはそう言うと、俺の隣に腰かけて空を見上げる。
でも、彼女は空なんか見てなくて、記憶の中にある思い出を見ているのではないかと思わせる雰囲気がそこにはあった。
「ミケラ様には、師匠とも呼べる人がいたのでごぜ~ます。年齢はミケラ様と2つほどしか変わらないのでごぜ~ますが」
「へぇ。もしかして、このトレーニングもその人直伝なのか?」
「ええ。それどころか、ミケラ様がお二人に言っていた事は全部その人のパクリでごぜ~ます」
そう言うことは内緒にしといてあげろよ。
てかパクリは言い方に語弊があるだろ。
受け売りでごぜ~ますで良かっただろ。
「まぁ、アレだ。ミケラにとってすごく大事な人なんだな」
「ええ。ミケラ様にとっても、私にとってもすごく大切な方でごぜ~ます」
「なぁ、そんなにいい人なら紹介してくれよ。多分【ドールカルト】にいるんだろ?」
俺がそう言うと、ロレンは気まずそうに視線を逸らした。
あれ、もしかして余計な事言ったか??
「大丈夫でごぜ~ますダンテ様。ちゃんとその方は生きておられます……ただ」
「ただ?」
「……あの人は、女神に囚われています。きっと今も、苦しんでもがき続けている事でごぜ~ましょう」
女神に囚われているか。
独特な言い回しだけど、昔の俺や中継地点であったアルさんやエルさんみたいに、スキル至上主義の世界の在り方に苦しめられているって事なのかな。
「大丈夫だよロレンちゃん!!」
「ラファ様?」
「ラファお前いつの間に」
俺もロレンもきっと思考にふけっていて気が付かなかったのだろう。
気が付けばラファが目の前に居て、ロレンの手を握っていた。
「実はね、私にも女神様の考えに囚われてる子が居るの。面倒見が良くて、私の親友!!」
「そうなのでごぜ~ますか」
「その子が言ってたの。仮にこの世界が間違っていると思っていても、それを口に出すのは怖くて怖くて出来ないって。でも、その恐怖心を無くせるぐらい安心出来る環境があれば、きっと私も素直になれるとも言ってたの」
そう言うラファの顔からは、珍しく年相応の雰囲気を感じた。
小さい子供をあやすような、大人びたお姉さんの様な雰囲気。
言葉使いは相変わらず子供っぽいけど。
「私ね、皆と一緒に居ると安心するの。きっとロウヒちゃんの手伝いをしていけば、この安心感が皆に広がっていくと思う。そうすればロレンちゃんが言ってたその子も、私の親友も、しがらみから解放できると思うよ」
ラファは両手を大の字で開いて笑顔でそう言った。
その言葉は聖母の様に暖かくて、子供の未来の様に希望にあふれている。
そんな彼女の言葉聞いたからだろう。
俺も少し、ロレンにお節介を焼きたくなってしまった。
「俺だってラファの言う安心感の輪みたいな物に入れて貰って救われたようなもんだ。きっとその人も女神の呪縛から逃れられる。ロウヒと出会ったあの日の俺みたいにな」
「ダンテ様、ラファ様」
「明日メルエムの森で行う作戦だってきっとその一歩になる。だから、頑張ろうぜ」
「そうそう。えいえいお~!!」
俺達のその言葉を、ロレンは少しばかりポカンとした顔で聞いていた。
でも、その顔は少しずつ優しい笑顔に変わっていってー
「そうでごぜ~ますね」
彼女はフフッと笑っていた。
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