第37話 子供達のSOS

 「えっと……3人はどういう関係?」


 ラファに抱きつく二人の子供に視線を向ける。

 『ラファお姉ちゃん』とか言ってたぐらいだし、小さい頃から仲の良い関係だったのか?


 でも、子供用の修道服や牧師の服を売っている村や町なんて聞いた事も無い。

 一体この子達は何処からメルエムの森へ?


 「こっちの子がカイ君。それでこっちの子がベルちゃんだよ~。二人とも私のお友達なんだ」


 ラファが二人の名前を紹介した所で、ベルと呼ばれていた子が俺に向き直る。

 修道服を身に纏ったベルは、その見た目に沿った品のある立ち振る舞いで会釈する。


 「初めまして、ベルです」

 「ご丁寧にどうも。俺はダンテだ」

 「ダンテさんですね。よろしくお願いします。私とカイは孤児院で育てられた身でして、ラファお姉ちゃんには孤児院の中で良く遊んでもらっていたんです」


 孤児院か。

 そう言えば、親から捨てられた子供を牧師やシスターが世話する施設があるとかなんとかって聞いた事があるな。


 「実は私達ー」

 「おい、そこのにぃちゃんに聞きたいことがある!!」


 ベルの言葉を遮って、カイと呼ばれた少年が声を張り上げた。

 彼はビシィっと人差し指を俺に向け、高らかにその疑問を宣言する。


 「お前、ラファお姉ちゃんとはどんな関係だ?!ま、ままままさかカレシって奴じゃないだろうな」


 あぁ……なるほど。

 カイ、ラファの事好きなんだ。


 まぁ、若干精神年齢低めのラファと一緒に遊ぶのは楽しいだろうし、そもそもラファは優しいし、小さい頃に一緒に遊んでもらったお姉さんなんだもんな。


 「大丈夫だ。ラファと俺はそんな関係者ないよ」

 「ダンテはお友達だよ」

 

 俺達がそう言うと、カイはホッと息を着いた。

 そんな彼にベルが拳骨。

 「こんな時にやってるのよ!」と小さくため息をこぼしていた。


 なんか、微笑ましいな。


 「もっと大事な用事があるでしょ?」

 「あ、そうだそうだ。俺達、魔女を探しに来たんだ」


 二人は少し真剣な顔つきになった。

 ラファは二人と目線を合わせられる位置までかがみ、優しく声をかける。


 「詳しく聞いても良い?」

 「うん……実はね、最近孤児院の様子がおかしいの」

 「なんか、前より厳しくなったって言うか……女神様の教えを守れない子への罰が酷くなってるんだよ」


 二人の顔が暗くなる。

 話が本題に迫るにつれて、ベルの手がブルブルと震え始めた。

 

 「私達、もう何が正しいのか分からなくなって。そんな時に、この場所は間違ってるって言ってたラファお姉ちゃんの事を思い出して」

 

 「ラファお姉ちゃんが着いていった魔女を探そうと思ったんだ」


 「そう。二人とも大変だったね」


 話を聞き終えると、ラファは二人の事をぎゅっと抱き寄せた。


 「大丈夫、私達がロウヒちゃんの……魔女の居る所へ連れて行ってあげるから」

 「ほんと?!」

 「うん。そこには優しいお友達もいっぱい居るんだ。きっと二人の事も快く受け入れてくれるよ」


 ラファがポンポンと二人の背中をさする。

 そのおかげでだいぶ落ち着いたみたいだ。


 にしても、その孤児院の話は気になるな。

 子供にトラウマを植え付けかねない指導をしているのなら、見過ごす事は出来ない。


 でもまずは、皆と合流するのが先か。


 「この先で俺達の仲間が待ってるんだ。一旦そこに行くぞ」

 「良い人ばかりだから大丈夫だよ」


 子供達にそう声をかける。

 「はぐれない様に手を繋ごう」なんてラファが提案したその瞬間ー


 「【拒絶の大剣】」

 「……は?」


 聞き覚えのある声が耳に届いた様な気がした。

 体中に嫌な予感が駆け巡る。


 「伏せろ!!」


 次の瞬間、考えるより先に体が動いていた。

 ラファ達の体を押し、無理やりその場からどかす。

 すると、俺達がさっきまで立っていた場所に大きな岩が飛んで来た。


 「惜しいな。女神様にあだなす反逆者どもを一網打尽に出来るチャンスだったのに」


 ぞろぞろと足音が響く。

 数にして十人程度の兵士が俺達を取り囲んでいた。


 俺はゆっくりと立ち上がり、その集団を指揮している男に声をかける。


 「ようアッシュ。久しぶりだな」

 「ダンテよぅ、会いたかったぜ。俺は村を抜けたお前をボコボコにする機会を待ってたんだ」


 あぁ最悪だ。

 ラファは仲の良い昔馴染みと再会してるって言うのに、どうして俺は嫌いな奴と再会することになってんだか。


 「今さら大人しく投降したって許さねぇぞ。お前と隣の女は拷問にかけて魔女の居場所を吐かせてやる。後ろのガキどもは牧師にでも渡して再教育だ」


 アッシュは、大剣をブンと振って先端をこちらに向ける。

 態度、言葉使い、そして威圧感。

 懐かしくなってくるほど変わってない。


 「アッシュ、俺はお前が怖かった」

 「ん?どうしたんだいきなり」

 「お前はスキルが恵まれてて、戦闘経験も豊富だったからな。ムカつく事があっても逆らわない方が良いって思ってたんだ……だけど今は違う」


 背中の棺桶を前に取り出し、地面に対して垂直になる様に突き立てる。

 

 「俺はロウヒと出会って変わった。もうお前の言う事にも、歪んだこの世界にも従わない……そう言いたかっただけだ」

 

 「下らん遺言はそれで充分みたいだな」


 アッシュが大剣を構える。

 俺達を取り囲んでいた兵士達も合わせて構え始める。


 「良く分からないけど、ダンテは大丈夫。私もついてるから」

 

 ふと隣を見ると、棺桶を構えるラファの姿があった。

 彼女はニッコリと笑って俺に声をかける。


 「沢山いるのは私のトモダチに任せて!!」

 「ああ、アッシュは俺が倒す」


 俺とラファの指先から紫の色が伸びる。

 そうして、互いの棺が音を立てて開くのだった。


 「スキル解放。A級傀儡ギガントドール!!」

 「スキル解放。A級傀儡フレンドール!!」

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Qザコスキル持ちの俺がスキルを売る魔女に出会ったらどうなる? A才能主義社会に革命を起こす為の戦いが始まる アカアオ @siinsen

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