第25話 ドラゴン退治 2

 「さて、ラファがドラゴンを探している間に僕様たちは作戦会議と行こう」


 ミケラはそう言うと、ローブの懐から折り畳み式のテントを展開した。

 そんなもの何処から持ってきたんだと聞いてみれば、優秀なメイドのロレンから預けられたものらしい。

 ついでに人数分のクッキー数枚も作ってくれたみたいだ。


 もはや優秀とかそう言う次元超えてる気がするんだけど。

 まぁ、彼女の持つメイドールのスキルゆえの神業だと思えばギリギリ納得出来る。

 メイドールは【ドールカルト】に3体しか存在しないS級傀儡の一体なんだもんな。


 「にして、こんな所で作戦会議する必要あるのか?」

 「何事にもエレガントさは大事だろう?当たり前の事だ。それに、フレンドールで大量のトモダチを展開しているラファの負担も減らせる」


 視線をラファに移す。

 彼女は独り言を呟きながらチョコンと座り、クッキーをボリボリと音を立てて食べていた。

 それも、ほっぺにクッキーのカスが付いているのも気づかない勢いで。


 「ラファ氏はあのトモダチ一体一体と情報共有が出来るのさ。ただ、デメリットとして展開しているトモダチが多ければ多いほど消耗が激しい」


 ラファのほっぺに付いたクッキーのカスを取り除きながらレオナはそう語った。

 なるほど、と言うことはドラゴンと戦闘する時にはガス欠になってる可能性が高いのか。


 と言うことは、俺とレオナとミケラの三人でドラゴンを倒す前提で話を進める方が良いな。


 「ドラゴンは魔族の中でもトップクラスにタフだ。ゆえに、決定打になる攻撃手段が限定されてしまうのだが……レオナはその決定打になりうる攻撃手段を持っていると、僕様は聞いているぞ」


 「おやおや、その情報もロレン氏から頂いたのかい?君のメイドは優秀だね」


 「ロレンは僕様の専用メイドだ。彼女がこの世で一番優秀なメイドであるのはもはや必然だろう?」


 「一理あるね」


 レオナはニヤリと笑いながらそう言うと、人差し指で自信の額をトントンと叩きながら何かを考え始めた。

 

 「確かに、私は対ドラゴンを想定した専用の銃を作成出来る。威力もロウヒ氏が一晩中ほめちぎるほどには十分だ。一発でも命中させればドラゴンを絶命させる事も可能だろう。ただ一つ、実践では使えないと断言出来てしまうほどの問題点があってね」


 「問題点?」


 俺の疑問に対し、レオナはクッキーを小さく割りながら答える。


 「アーミードールでその銃を展開して攻撃に移るまで時間がかかるのさ。こいつをドラゴン退治の決定打にするのなら、対象を10分間拘束する必要があるよ」


 一口サイズまで割って小さくしたクッキーを食べながら「私はとても現実的じゃないと思う」と俺達に訴えかけた。


 う~ん。

 確かに攻撃まで10分の時間がかかるのはネックだな。

 ドラゴンの体は結構大きいし、大技が放たれる前に潔く逃げられたなんて事例もあったらしい。


 それを押しとどめれるほどのパワーを持った存在が必要か。


 「あ」


 そこまで考えた瞬間、俺の頭にピコンと電流が流れた。

 脳内で再生されるのは、あの耳をつんざく様な叫び声。


 そうだ、あるじゃないか!!

 ドラゴンだって押しとどめられるパワーを持つスキルが俺の背中の棺桶の中に!!


 「僕様が直接言わずともすでに察しているようだな」 

 「もしかして、ギガントドールの情報までロレン越しに伝わってるのか」

 「傀儡人形の詳細は知らないが、ロウヒが絶賛するほどのパワーを持つとは聞いているぞ」


 ミケラはナァ~ハハハ!!!と高笑いをしながら俺の肩を叩く。

 こいつ、ちゃんと情報集めた上で俺達を集めてたんだな。


 「話をまとめると、俺のギガントドールが10分の間同じ場所にドラゴンを拘束するのが勝利条件って事だな」


 「なに、重圧を感じる必要は無いぞ。ドラゴンの足止め要因はお前だが、僕様も隣でサポートしながらドラゴンと戦うつもりだ。民に全て押し付ける僕様など僕様ではないからな」


 「そりゃぁ心強いな」


 「そうだろう!!そうだろう!!それに、もしこの作戦が全て失敗したとしても僕様が奥の手を切ってドラゴンを倒せばよいだけだ。二重に何も心配することは無いという訳だ」


 「奥の手?」


 なんだそれと聞き返すと、隣に立っていたレオナが「ああ、そのことかい」と呟いた。

 そして、ひっそりと俺の耳元へ顔を近づける。


 「ダンテ氏ダンテ氏。傀儡人形の種類について覚えているかい?」

 「ああ。A級傀儡とかEX傀儡とか」

 「棺桶の形状を見て貰えば分かると思うが、ミケラ氏はB級傀儡を所持している」


 ひそひそと情報を補足してくれるレオナの話を聞きながら復習する。

 確か、B級傀儡の売り文句は2つのスキルを所持出来る事だったな。


 ミケラの背中にある棺桶は二つの棺桶が連なった形。

 最初に見た時からB級を選んだんだろうなとは思っていたけど、それと奥の手は何の関係が?


 「ミケラ氏は基本、戦闘で傀儡人形を一体しか使わないんだ」

 「え?B級って傀儡人形2体を展開しながら戦うスタイルじゃないのか?」

 「本来そうなんだけどね。ミケラ氏は何故か、片方の傀儡人形を奥の手として温存してるんだ」

 「なんでそんな事を」


 たしか……B級傀儡一体一体のスキルはA級に比べて弱いんだろ?

 だからこそのスキル2つ持ち。

 下手に温存する必要なんてどうやっても考えられない。


 「そこは私も知らないさ。けど、【ドールカルト】の誰もミケラ氏の戦闘スタイルにケチ付けられないんだよね」

 「なんでさ」

 「彼がB級傀儡1体だけで十分強いからだよ。近接攻撃に絞った対戦を行うなら、彼はロウヒ氏よりも強いだろうね」

 「それマジで言ってる?」

 「マジで言っているとも」


 俺はあの時ロウヒの戦いをまじかで見ている。

 だからこそ断言出来る。

 ロウヒの近接戦闘能力は高い。

 

 なんせ、アッシュの攻撃をかいくぐって一方的に棺桶で殴りかかってたぐらいだし。


 だけど……ミケラはそれすらも超えるって言うのか?

 しかも、二つある傀儡人形を片方しか使わない状態で。


 頭の中でそんな思考を回しながらミケラを見つめる。

 ミケラが「どうしたダンテ?また僕様に見惚れてしまったか」と言いかけたその瞬間の事だった。


 「見つけた!!ドラゴンあっちの方に居るって」


 ラファのトモダチが、ドラゴンの居場所を見つけたのは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る