第22話【ロウヒSIDE】 魔女と賢者

 「いや~。昨日は良いもの見れたね~」


 ダンテ君に傀儡人形を渡した昨日を思い返しながら、私は一人拠点を飛び出して暗い森の中を歩いていた。


 この場所は人間が寄り付くことの無い魔の巣窟。

 知識を身に着けた魔族が現れる危険地帯。


 仲間も連れず、碌な移動手段も用意していないのは決して驕りじゃない。

 それ相応のリスクを負うことでこれから会う相手に誠意を見せる為だ。


 「その様子だと……そちらは上手く行っているようだな」


 気の木陰から掠れた声が聞える。

 まったく、私と同じで800年近く生きている癖にど~してあの老体にこだわるのやら。


 「まぁね。こっちの準備はほぼ整ってる」

 「ふん。大方、女神を殺す事に意欲的な人材を集めていたのだろう?」

 「よく分かったね」

 

 クルリと声がした方向へ振り向く。

 そこに立っていたのは、白髪と長いひげに包まれたジジイ。


 七背の一柱、狂信の賢者ヌジャンの姿だった。


 「お前の目的はどんな人間でも幸せに暮らせる世界だ。だから人生の方向性を決める女神のスキルを嫌い、自ら作り出す術を見つけた。そんなお前が自分の目的の為に戦いたくない人間をいくさに駆り出せはせんだろ」


 そうでなければあの時、魔王を裏切る訳が無いと愚痴をこぼしながらヌジャンは私との距離を詰める。


 「4人の少数精鋭部隊を作るんだよ。今頃、ミケラ君がメンバー候補の子達に話かけてるんじゃないかな?」


 ミケラ君と彼のメイドであるロレンちゃんは私の計画を全て把握してる。

 なんたって、【ドールカルト】は私とあの二人で作ったんだから。


 S級傀儡を持ち、スキルの応用力が高いレオナちゃん。

 今の社会制度を変えないと救えない友人の居るラファちゃん。

 教王の血筋であり、女神そのものを倒さなくちゃいけない理由があるミケラ君。


 そしてー


 『皆、女神が勝手に与えたスキルに縛られて、その縛りに適応できない人間が苦しんでいく。どんなに声を上げて救いを求めたって、それは女神様の意向に反するって一言で無下にされる』


 『もし元凶の女神を殺さないとこの世界が変わらないって言うなら、俺はアンタと一緒に神殺しの大罪も成し遂げるよ』


 私が親友ベアトリーチェの力を預けても良いと確信したダンテ君。


 女神の討伐と【ドールカルト】の活動はこの4人と私を主軸に進める。

 これが一番の最適解だ。


 「てゆ~かさ。私とべらべら喋って大丈夫なの?私は女神を倒した後、魔族を潰すよ」


 「まぁそう冷たい事を言うな。あの女神とその使徒にやられて、七背の生き残りはわしとお主とエリザベートしかおらんのだ。楽しく談笑したって構わんだろう?」


 「へ~、体がジジイだからボケてるのかな?普通は談笑してる相手に殺気なんて送らないんだよ」


 瞬間、辺りが気味の悪いほど静まった。

 切っ掛けさえあれば直ぐに殺し合いが始まってしまいそうな緊張感が走る。


 「はっ、な~にお互い様じゃ。女神を殺す目的だけは一致しておる。そこまではお主の活動を黙って見てやろう」

 「そう。ていうか、そっちはどうなのさ。8代目の魔王が生まれたんでしょ?」

 「スキルは上々だが、まだまだガキだ。今のままでは使い物にならんよ」


 ヌジャンはそう言って息を吐くと、気だるげそうに空を見上げた。

 

 「だから、あのガキが使い物になるまでお前等には暴れてもらう。【ドールカルト】の活動が活発になるほど、女神どもの注意は我々から逸れるからな」

 

 「おとりになる気は無いんだけど……まっ上手く利用させてもらうとするよ」


 食えないジジイだよ。 

 あんまり得意じゃないんだよね、こういうタイプ。


 「んで、何か良い情報掴んだから私に声かけたんでしょ?」

 

 これ以上無駄話する必要もないか。

 さっさと要件だけ済ませて帰ろう。


 「お主らの事が王都を中心に噂になっているそうだ。なんでも、自分の願いを叶えてくれる魔女が居る。メルエルの森に向えば魔女とその仲間に会えるとな」

 

 「何それ。大体メルエルの森って拠点と全然違う所なんだけど?」


 「噂なぞ情報が間違っていて当たり前だ。それより重要なのは、この噂を信じる弱者が居るかどうか……そうであろう」


 そう言って私を見つめるヌジャンの目は、『お前はそう言う弱者を見過ごせぬだろう?』と訴えかけていた。

 

 「そうだね、すぐにでも対策を考えるよ。私特性の精鋭部隊の実践も兼ねてね」

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