第21話 A級傀儡ギガントドール
「見た目より重く無いんだな」
ギガントドールが入った棺桶を背負う。
特殊な素材でも使っているのか、意識しなければ自分が物を背負っている事すら忘れてしまうほど棺桶は軽かった。
「ま、誰でも望むスキルを……ひいては望む生活を手に入れられるための傀儡人形だからさ。どんな人にだって不便なく使える様に色々工夫してるんだよ」
ロウヒは自慢げにそう言うと、「こっちにおいで」と手招きをしながら部屋の奥へ進んだ。
俺は隣で楽しそうにしているラファのと一緒にロウヒの背中を追いかけた。
◇
「おいおい、こんな空間どうやって作たんだよ」
俺達がたどり着いたのは、だだっ広い空洞の様な部屋だった。
ロウヒが地下へ続く階段を降り始めた時はてっきり薄暗く狭い研究部屋にでも行くのかと思ってたんだけどな。
「そこらの洞窟なんかよりずっと広いでしょ。ここで大きめのドラゴンが暴れた事もあるんだよ」
「数100人のトモダチとパーティーした事もあるね!!」
ロウヒとラファの声がボワァァンと響く。
二人の言葉といい、この声の反響具合といい、どんだけ広いんだよ。
「さて、ダンテ君。せっかく手に入れた君の力、使ってみたいと思わないかい?」
「そりゃぁ、確かに」
「この超巨大地下空洞はね、傀儡人形の性能を試す為の場所として作ったんだ。場所は広いしこう見えて頑丈だから地上にも被害が出ない。そしてもちろん、対戦相手も完備してる」
ロウヒがパチンと指を鳴らす。
彼女の隣に黄金の沼が出来上がり、そこから鎖でグルグル巻きにされている奇妙な人形が現れた。
ロウヒはその人形に両手で触れると、いつものとは違う詠唱を始めた。
「スキル起動、A級想定傀儡人形プロトタイプ・メモリードール」
すると、例の人形から青色の光が照射される。
その光はある一か所に集まり、やがて一つの形に変化する。
そこに現れたのは、牙に赤い炎を纏うイノシシの魔族だった。
あの魔族……村でギルドの事務員やってた時に報告書ごしで見たことがある。
確か名前はフューリアスボア。
「その表情だと、この魔物の事は知ってるみたいだね」
「そりゃ、村の精鋭冒険者5人がかりでギリギリ討伐出来た魔族なんて嫌でも忘れないよ」
この魔族は特に突進攻撃の威力が馬鹿にならない。
アッシュの『武器が触れた物を弾く』スキルでやっと迎え撃てるパワー。
おまけに、その代償としてアッシュの両手に全治3か月の怪我を負わせている実持ちだ。
あいつが大怪我するなんて珍しかったからな、当時の村は色々と騒がしかったよ。
背中の棺桶をバッと取り出し、地面に突き立てる。
その動きを見たフューリアスボアが俺にめがけて走って来た。
バクバクと鳴る心臓。
心の中に有るのは期待と不安。
「今のダンテ君ならこんな魔族ぐらい余裕で倒せるよ。今から行う戦いは、君のその力を実感してもらうための物だからね」
「そっか……なら期待させてもらうとするか!!」
頭の中で、ロウヒやレオナが傀儡人形を使っていたシーンを繰り返し再生する。
自分がスキルを扱う場面をイメージしながら、俺はその言葉を口に出した。
「スキル解放。A級傀儡ギガントドール!!」
俺の指先から紫の糸が伸びる。
棺桶の扉が開き、そこから現れたギガントドールがフューリアスボアを迎え撃つように飛び出した。
それもー
「GUUULAAAAAAAAA!!」
耳をつんざくような雄叫びを上げながら。
とても自分の人形から出たとは思えないその声が、ビリビリと体を伝う。
その声が、『一緒にあの魔族を倒すぞ』と俺の背中を押してくれる。
「よし……まずはアイツを止めるぞ」
指先から人形に届くように力を込める。
すると、ギガントドールの体躯が2倍、3倍と大きくなっていく。
10倍ほどにまで巨大化した所で、ギガントドールはフューリアスボアの突進攻撃と正面衝突する。
瞬間、強大な衝撃波が発生した。
ロウヒやラファはその場から飛ばされてしまわない様にと壁にしがみついている。
そんな中、俺はー
「ハハハ……凄い、夢みたいだ!!!」
フューリアスボアの突進攻撃を完全に受け止めたギガントドールを見て笑っていた。
あんなに弱かった俺が、女神に見捨てられた俺が、村の皆で何とか倒した魔物を抑え込んでいる。
この事実が、俺の心を熱く滾らせていた。
「行くぞギガントドール、とどめだ!!」
両手に伸びる紫の糸を力強く引く。
それに合わせてギガントドールは動き、フューリアスボアを握っては投げ飛ばした。
訳も分からず空中でじたばたするその魔物をじっと見つめ、最適なタイミングで俺は叫んだ。
「ぶっ潰せ!!」
「GUUULAAAAAAAAA!!」
巨大な拳が魔族を地面に叩き潰す。
グシャリと肉が潰れる音が聞えた後、フューリアスボアは青い光になって消えたのだった。
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