第20話 新たな力の名は
「お~い!!ロウヒちゃ~ん!!」
ラファに案内されて、たどり着いたのは道の外れにある薄暗い道。
その道の端に隠される様に設置されていたドアを開けば、沢山の道具や資料が散乱している部屋が俺達を待ち構えていた。
「やっほ~ラファちゃん。迷わず来れたみたいだね」
「うん!!トモダチが私の手を握って案内してくれたから」
「そっか。いつ聞いても優しいトモダチだね」
ラファとそんな言葉を交わしながらロウヒが姿を現した。
彼女の目にはパッと見で分かるほどに酷いクマが出来ている。
「ロウヒ……どうしたんだそれ?」
「おはようダンテ君。いや~、一回凝り始めると止まらなくてね。結局徹夜しちゃった」
「えぇ、大丈夫なのかそれ」
「大丈夫だよ。私にはこれがあるからさ」
ロウヒはそう言うと、近くの机の上にあったコップを取り出した。
そのコップの中には緑色の液体が入っている。
しかもなんかコポコポ音出してるし、泡みたいなのが浮き上がってるんだけど。
「なんだそれ」
「ポーションだよ。魔女の定番ドリンク、スキルと女神が現れる前の時代では皆これ飲んで戦ってたんだよ」
「へぇ!!俺が見た歴史書には載って無かったな、それ。…………一口飲んでも良いか?」
もちろんとロウヒが首を縦に振る。
スキルが無い時代に重要視されていた産物。
過去の時代を生きた人間がどうやって戦っていたのかを知識だけでなく実体験を踏まえて味わえる千載一遇のチャンスだ!!
そう思ってロウヒの持つポーションに手を伸ばしたその瞬間、真っ青な顔をしたラファにそれを止められる。
ものすごい勢いで首を横に振り、決死の表情で『辞めといたほうが良いよ』と問いかける。
むむう。
せっかくのチャンスだけど、このままだとラファの首が取れそうだし……いったん此処は引き下がろう。
明日にでも一人でロウヒに会いに行けばいい話だしな。
「まぁ、そんな話は置いといて。ダンテ君の傀儡人形だね」
ロウヒがパチンと指を鳴らす。
近くの地面が黄金の沼に変わり、そこから一つの棺桶が浮かび上がった。
棺桶が完全に浮上した事を確かめると、ロウヒがゆっくりとその扉を開く。
そこに眠っていたのは、くすんだ灰色の髪の毛と赤い目を持つ少女を模した人形だった。
その髪の毛の長さは特に印象的だった。
なにせ、腰を超えて太ももの中心にまで届いているのだから。
「可愛い人形だな」
「ふふ、ありがとう。ベアトリーチェも喜ぶよ」
「ん?なんでだよ」
「ダンテ君の傀儡人形にはベアトリーチェの戦闘スタイルを模したスキルを搭載してる。だから、見た目のあの子そっくりにしたんだよ」
その内、あの子の魂が宿るかも……なんてロウヒは冗談めかして笑っていた。
人形の赤い目に俺の姿が反射する。
そこに映った自分を見て、今どんな顔をしているのか初めて理解する。
それはまるで憧れを目にした子供の様な表情であり、魂を抜き取られた様な間抜けな表情だった。
「さぁダンテ君。これを」
ロウヒが小さな箱を俺に手渡す。
その箱の中に入っていたのは一つの指輪。
俺は指輪を箱から取り出すと、村で見たあの時のロウヒの様にその指輪を自分の中指にはめた。
体の芯で、何かが燃える感覚。
それは苦しいものでは無くて、どこか安心感を与えてくれる温かさを生み出している。
ふと自分の両手を見ると、指先から紫色の糸が這い出ているのが確認できた。
その糸は何かに導かれる様に目の前の人形に巻き付いていく。
じんわり、じんわりと自分の中で何かが広がっていく。
最初に体が二つに増えたような感覚があった。
生まれた時から持っていた『紙を整理する』スキルを操る感覚が消えていく。
そして、その代わりに別の何かが俺の体にジンワリと入りこんで来た。
「ギガントドール」
それは俺の意思を通さず俺の口から出た言葉だった。
なんで俺はこんなことを言ったんだ?
そんな疑問を口に出す暇も無く、中指に付けた指輪が紫色の光を灯した。
「おめでとう、ダンテ君。女神に押し付けられたスキルは君の理想とするスキルに上書きされた」
光りを灯した俺の指輪に文字が刻まれていく。
そこには俺が手にした傀儡人形の名前が刻まれているのだと、心のどこかで何となく納得した。
「A級傀儡ギガントドール。それが、君の新しい力の名前だよ」
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