第19話 不思議の国のラファ(28才)

 「あぁ……朝か」


 チュンチュンと鳥のさえずりが聞こえる。

 ぼんやりする頭を回し、目元を擦りながら体に力を入れた。


 昨日のパーティーは結構楽しかったな。

 マジで豪華な料理ばっかりだった。


 ミケラも俺の為に色んなゲームを用意してくれて結構盛り上がたなぁ。

 あの、何だっけ……あ、そうチェスだ。


 王家に伝わるって言うそのゲームをミケラが教えて、店に居た人全員巻き込んでやったんだよな。

 ミケラの奴、レオナに連敗してて悔しがってたなぁ。


 窓から注ぐ太陽光を浴び、軽く体を動かす。

 意識がしっかり覚醒したころ合いに合わせ、寝巻から黒いローブへの着替えを終わらせる。


 「さて、これからどうするべきか」


 いったんロウヒに会いたいところだけど、どこに居るのか知らないんだよな。

 外に出て、レオナかミケラに会えたなら案内でもしてもらおう。


 「あの~、すみません。ダンテって人居ますか?」


 そんな事を考えていたその時、ドアの向こうから女性の声が響いてきた。

 コンコン、とドアを叩きながら俺の事を読んでいる。


 「ロウヒちゃんからお願いされて来ましたー!!」

 「はいはい~。今出ますよ」


 変な寝癖が出来ていないかをさっと確認し、ドアを開ける。

 そこに立っていたのは、俺よりも一回り大きい背丈の女性だった。


 「あ、どうも。昨日からここに住んでるダンテって言いまー」

 「うわ~!!新しいお友達だ!!」

 「へ?」


 カバっと温かい何かに包まれる。

 彼女がいきなり俺の体に抱きついてきた。


 しかもその行動に一切の色気は無く、感覚的には大型犬にじゃれつかれた時の様。

 

 でもあの、胸が当たってるんだけど!

 この態勢あまりよろしく無いんだけど!!

 

 「ん、お顔赤いよ?熱でも出た?体調悪い?」

 「そんな事は無いけど……出来れば離れてくれると嬉しい」

 「……何で?」


 いや、そんな不思議そうな顔されても困る。


 「ねぇ、皆?ダンテの言ってること分かる?」

 「皆?」

 「そう、私のトモダチ。皆頭が良くて私に色んな事を教えてくれるの」


 そう言って彼女は何もない空間に向かって指をさした。

 まるでそこに誰かが居るかのように。

 

 「へ~、恥ずかしがり屋さんなんだ」

 「えっと、一体何と話してー」

 「でもよかったね。皆、ダンテの事を良い人だって言ってるよ」


 そう言って彼女は抱きしめて居た俺の身体を放した。

 『男の子と女の子は気軽に触れちゃ駄目なんだね~』と言いながらペコリと頭を下げて。


 「あ、自己紹介!!友達になるには大切だよね!!」

 「あ、ああ。ダンテだ、よろしく」

 「私ラファ。28才!!将来の夢はお友達とトモダチを合計200人作ること!!」


 何なんだこの人。

 見た目は明らかに俺より年上だし、パッと見は優しいお姉さん見たいな印象すらある。

 でもなんだ、こんな事言ったら失礼かもしれないが子供と話てる感じがする。


 体は大人で精神だけ子供??

 そんな事有りえるのか?


 「私の事はラファって呼んで良いよ~。これでダンテも新しいお友達だね」

 「そっか……えっと、俺はここの事よく知らないから色々案内してくれると助かるな」

 「うん!!私に任せて~」

  

 いまいち掴みどころが分からないし、若干困惑もしてる。


 彼女の事情はよく分からないが、悪い人ではなさそうだ。

 服装だって俺と同じ黒いローブを着ている。


 彼女も何か事情があって【ドールカルト】に所属した仲間と言う事だ。

 だったら、ちゃんと仲良くしないとな。


 「そう言えば、ラファはロウヒに何をお願いさたんだ?」

 「あ、忘れてた」


 彼女は右手でコツンと軽く自分の頭を叩く。

 エヘヘ~と言いながらローブのポケットから取り出したのは、クシャクシャになっている一枚のメモ用紙だった。


 「伝言!!えっと……ダンテ君へ、君の傀儡人形が出来たから取りに来て。道案内はラファちゃんがしてくれるから……だって」

 

 その言葉を聞いた時、俺の心臓がドクンと跳ねた。


 俺が【ドールカルト】に来た一番の切っ掛け。

 ずっと楽しみにしていた自分の新しいスキル。


 『この歪な世界を変える』


 その大儀を成すと言う目標を立ててその手段になる様なスキルにしたとは言えども、ずっと憧れていた強いスキルを手に入れられるという事実が俺の心を熱く滾らせてくれる事に変わりはない。


 「ラファ、さっそくだけどロウヒの所まで案内して貰っても良いか?」

 「うん!!私に付いて来て~、トモダチがロウヒちゃんの家の場所覚えてるから」


 やけにハイテンションなラファの大きな背中を追いかける。

 心のままに、自然とスキップを踏みながら。

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