第18話 ナルシスト王子と万能メイド

 「ミケラ様、駄目でごぜ~ます。ダンテ様が動かね~です」

 「何という事だ!!僕様の魅力がまた一人の民を犠牲にしてしまったとでもいうのか!!」


 アホみたいな問答を聞いてハッとする。

 あまりの衝撃のせいで一瞬思考が飛んだ。


 「え、アンタ本当にあの教王の息子なのか?そのプロフロードってファミリーネームは嘘とかじゃなくて」

 「ああ、全て本当の事さ。ああ、別にかしこまる必要は無い。貴様は僕様の民であると同時に背中を預ける仲間となったのだ、フランクな言葉遣いで構わない」

 

 目の前の男はそう言ってまた高笑い。

 隣に立つメイドさんもその言葉を否定する様子は見られなかった。


 「もう一度、私の方で紹介するね。彼はミケラ君。教王の血を引く元王子様候補。隣の彼女はロレンちゃん。メディッチ家って言う代々教王の所でメイドや執事やってる名家生まれの子だよ」


 俺の肩をポンと叩きながら、ロウヒは二人の紹介をしてくれた。

 いや、改めて凄いな。

 

 まさか、教王に深く関る人間まで【ドールカルト】に居るとは思わなかった。

 それだけこの世界の歪みが大きいって事なんだろうけど。


 「ん?待てよ……ロレンって確か、ロウヒやレオナと同じS級傀儡の持ち主って人じゃないか?」

 「そうそう、あの紙に書いてあったでしょ~。戦う事は出来ないけど、日常生活の雑事なら大体できる子だから、困ったら頼るといいよ」

 「私も、ロレン氏にはかなりお世話になっているからね。彼女の仕事の出来は私が保証しよう」


 二人が口を揃えてロレンの事を好評する。

 確かあの紙に書いてあった情報だと、彼女の傀儡人形は『S級傀儡メイドール』だったか。


 「お言葉でごぜ~ますが、お二人の部屋は汚いなんてものじゃね~です。もはや物置でごぜ~ます。少しは自分で片付ける習慣を身に着けた方が良いでごぜ~ますよ」


 ロレンがジト~っとした目で二人を見つめる。

 その視線から逃げる様に、ロウヒとレオナはそっと目を泳がせた。


 いや、どんだけ部屋汚いんだよ。


 「ま、まぁその話は置いといて……私はダンテ君の傀儡人形を作って来るから、後の事はお願いね」

 「この僕様にかかれば問題ない。ロレン、確か例の集合住宅に一つ空いている部屋があっただろう?ロウヒからダンテの荷物を預かって、今夜彼がぐっっっすりと眠れるように手配を頼む」

 「やれやれ、しょうがないな、でごぜ~ます」


 ロレンはカラカラと笑うと、背中の棺桶をヒョイッと前に突き出した。

 それに合わせて、ロウヒも例の黄金の沼を近くの地面に生成する。


 「スキル解放。S級傀儡メイドール」


 ロレンの棺桶が開く。

 そこから飛び出したのは、メイド服に身を包んだ女性の人形だった。


 その人形は、ロウヒの黄金の沼から俺の荷物を器用に取り出し、謎の力で宙に浮かせている。


 「それでは私はお先に失礼するでごぜ~ます」


 彼女はそれだけ言って、俺の荷物を宙に浮かべて運びながら扉の奥へ消えていった。


 「それじゃ、私も張り切ってダンテ君の傀儡人形作るからね~」


 そんなロレンに続くように、腕をまくりながらロウヒも門へ向かう。


 「あ、そうそうミケラ君」

 「どうした?僕様の魅力にまた当てられてー」

 「ダンテ君は私のお気に入りだから。丁重に扱ってね」

 「……そうか。これでようやく4人目だな」


 二人のその声が張りつめた様に感じたのは気のせいだろうか?

 今までお茶らけていた二人が、あの一瞬だけ重い何かを纏っていたような。


 そんな疑問も解消しない内に、ロウヒは走って門の中へと入ってしまった。


 「何だったんだ?今の会話」

 「私にもさっぱりだ。ミケラ氏は【ドールカルト】内でかなりの古株でね。何か特殊な事情があるのだろう」


 こっそりレオナと言葉を交わす。

 よっぽどの何かがあの二人を繋げてるのは確かだと思うんだが……全然分からんな。


 俺達がそれを知る日が来ることはあるのだろうか?


 「さて、ダンテ。良い時間だ腹が減っただろう?」

 「うぉ!?」


 そんな考え事などお構いなし。

 ミケラは俺の肩にがっしりと手を回し、愉快そうに笑っている。


 「本来、王都の金持ちしか食べれない料理を安価で提供する店が拠点の中にあるんだ。そこで盛大にパーティーと行こうじゃないか!!」

 「おぉぉ、押すな押すな!!こけそうだから」

 「ミケラ氏~。それ、私も参加していいかい?」

 「もちろんだ!!僕様が関わっている以上、盛大で壮大なパーティーにせねばな!!」

 「おい、だから押すなって、おわぁぁぁぁ!!」


 結局、その疑問が今日解決することは無く、勢い任せに始まったパーティーを楽しむ事になった。

 ちなみに、そこで食べたご飯は俺の人生の中で一番美味しいものだった。

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