第14話 俺が目指すもの
「ロウヒ!!」
リビングへ繋がる扉をバタンと開た。
椅子に座ってのほほんとパンをかじっていたロウヒは、俺の声に一瞬驚いたものの、すぐに顔色を切り替えて俺に問いかけた。
「決まったんだね。君が買うスキル」
「ああ、決めた。きっとこれなら後悔なんてしないと思う」
「OK。せっかくだし、ここじゃなくて私の部屋で話そう」
プライベートな話だからねと呟きながらロウヒは手招きする。
俺はそんな彼女に付いていって、リビングの近くに配置されている大きな部屋へと足を運んだ。
「それで、プランはどうするの?」
「A級傀儡のプランで頼む」
「ほうほう、A級ね。で、どんなスキルにするの?A級を選ぶって事は結構強いスキルなんでしょ?一旦こっちの事情を考えずに、理想とするスキルの詳細を教えて欲しいな」
ドカっと音を鳴らしながら彼女は備え付けの椅子に座った。
ロウヒのスキルで机の一部が黄金の沼に変化し、彼女はそこから設計図のような物と筆を取り出した。
「七背の一人、神殺しの巨人ベアトリーチェ。彼女の持つスキルを再現してほしい」
我ながら、とんだ無茶振りを思いついたものだ。
自分が憧れてる偉人と同じ力が欲しいなんて、冷静になって考えるとかなり恥ずかしい事を言っているんじゃないかとも思う。
でも、これでいい。
俺は今、心の底からこのスキルを欲しているのだから。
「ベアトリーチェの持つスキルは隣で戦っていた私でも全貌が見えない複雑なものだった。だから完全再現は出来ない。でも、彼女の戦闘スタイルの7割を模倣出来るスキルなら作れるよ」
そして、ロウヒは俺の理想を聞いて笑ったりしない。
真剣に向き合ってくれる。
「ならそれで頼む」
「OK。なら、細かい所も一気に決めちゃおう。ダンテ君自身がデカくなって戦うのと、君の傀儡人形がボコスカ相手を殴り倒すの、どっちが良い?」
「そうだな……人形が殴る方が良いかも」
「はいよ~。それじゃ次ー」
ロウヒはペンを走らせ、設計図とにらめっこする。
俺はそんな彼女を見つめながら質問に答え、俺専用の傀儡人形が理想の形になるよう話し合いを続けた。
夢中になっていた俺達はどうやら時間すら忘れていたようで、話し合いの終わりは互いの腹の虫が声を上げたのと同時だった。
「よ〜し完成!!お腹空いたね〜」
「結構長い間話してたからな。リビングに行こう。なんか食べれる物があるかもしれない」
「‥‥‥ダンテ君。その前に質問良いかな?」
椅子から立ち上がる俺をロウヒが呼び止める。
どうした?と相槌を返しながら振り返る。
「どうしてベアトリーチェのスキルを模倣したいと思ったの?七背のスキルを模倣したいってだけの理由なら、もっと使いやすいスキルをもつ奴は沢山いる。そんな中でわざわざあの子を選んだのには何か理由があるんじゃない?」
そこに立っていたロウヒが纏う雰囲気はさっきとは一変していた。
今の彼女を包んでいるのは、村で初めて出会ったあの時のジットリとした不思議な雰囲気だ。
「今日、エルさんの過去を聞いたんだ。俺さ、びっくりしたんだよ。強いスキルを持っている人間があんな酷い事をされてるのが」
正直な話、雑魚スキルを持っている人間だけが不幸になるだけの話なら納得は出来ないながらも理解できたんだ。
俺が強いスキルに憧れていたのは弱いスキルに苦しめられてきたから。
俺にとってこの世界の歪みは、理不尽にスキルの格差が生まれて弱いスキルを持つ人間が苦しみ続ける事だけだと思ってた。
でも違う。
この世界の歪さはそんなものじゃ無い。
「皆、女神が勝手に与えたスキルに縛られて、その縛りに適応できない人間が苦しんでいく。どんなに声を上げて救いを求めたって、それは女神様の意向に反するって一言で無下にされる」
俺が憧れてやまない強力なスキル。
その使い道を、俺はあの瞬間に決めた。
「ロウヒ、アンタはあの時一緒に世界を変えようって言ってくれたな。改めて宣言するよ。俺はアンタと一緒にこの世界を変える。もし元凶の女神を殺さないとこの世界が変わらないって言うなら、俺はアンタと一緒に神殺しの大罪も成し遂げるよ」
「なるほどね。それで神殺しの異名を持つあの子を選んだ訳だ」
そう言った彼女は納得したように息を吐いた。
そしてまた、俺の目をじっと見つめる。
「やっぱり君は私の同志だよ。だって、【ドールカルト】に所属する誰よりも思考が私に似てる」
「そ、そうか?」
「ま、私がなんとな~くそう思うだけだから。気にしないで良いよ」
パッと声を明るく切り替えたロウヒは、ルンルンと浮足立ちながらリビングへ向かう。
そんな彼女の体が俺を抜かしたその瞬間ー
「君には特別に教えてあげる。アイツの名前」
「え?」
「カグヤ・ヒメツキ。女神を名乗る、この世界にとっての異物の名前さ」
爆弾級の情報だけを俺に残していった。
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