第12話 好きを形に 前編
「なるほどなぁ」
傀儡人形のプランが記された紙を置き、ふぅと息を吐く。
理想のスキルを与えると豪語していただけはある。
自由度が想像以上だ。
とりあえず、EXはナシだな。
どうせなら、戦闘で使える強いスキルがほしいし。
剣の達人になれるスキルとか?
いやいや、いっそのことB級のプランにして火と水の両方を操れるようにするのもアリかも。
いや、でもなぁ。
「う〜ん」
迷う。
俺はとにかくアッシュみたいに皆から一目置かれるような強いスキルがほしい。
でも、ただ単に『強いスキル』としか考えてなかったから、それが具体的にどんなスキルなのかあやふやだ。
頭の中で活躍している自分をイメージは出来ても、自分が何のスキルを使っているかってイメージが流れる雲のように変わっていく。
どれを選んでもしっくりこない気がする。
数年後、このスキルを選んだ事を後悔するんじゃないかって懸念が浮かんでは消えない。
俺はザコスキルを持っている事で苦しめられた。
だからこそ、強いスキルを心から欲している。
でも……その先はどうする?
強いスキルを得て、満足して、その後……俺はそのスキルで何をするのだろうか?
「焦って決める必要は無いからね。どうせ、私が君の傀儡人形を作るのは拠点に帰ってからだし」
そんな俺に対して、ロウヒは優しく落ち着いた声でそういった。
その言葉の中には、あの時感じたジメッとした何かもはらんでいる。
なんとも奇妙な話だが、俺はそれを感じ取ってホッとした。
ロウヒはちゃんと俺の心と向き合ってくれている、ただの建前じゃなくて本心から慰めの言葉をかけている‥‥‥そう思ったんだ。
「ここは自然も多いし、外でリラックスしながらゆっくり考えると良いよ」
「そうだな、ありがとう」
俺はそう言って立ち上がった。
何となくだけど、このままここで煮詰まっててもいい案は思いつかないような気がしたんだ。
「あ、外に出るならすこし待ってほしい」
そういって俺を呼び止めたのは、この建物の持ち主であるエルさんだった。
彼は俺に「少しだけで良いからじっとしていて」と言うと、背中の棺桶をすっと置いた。
「スキル解放。EX傀儡ミシンドール」
彼の声に合わせて棺桶の扉が開く。
そこから現れたのは、大きな手と肩に張り付いた車輪のような物が特徴の人形だった。
その人形は俺の体を両手でペタペタ触ると、満足そうな顔をしてエルさんの元へ帰っていった。
「えっと‥‥‥これは?」
「気にしないで。僕から君に送るプレゼントに必要な行為だから
エルさんはにこやかな笑顔を浮かべてそう言うと、ミシンドールと一緒に奥の部屋へと入っていくのだった。
◇
「う〜む」
あの後、俺は建物の外にあるだだっ広い場所で寝転がりながら空を見つめていた。
こうやってぼーっとしながら自然に囲まれるって言うのも案外悪くないもんだな。
「にしても、どうすっかな〜」
「顔を見るに、中々難航しているようだね」
「レオナ」
俺の視界にひょこっと顔を出したレオナは、俺の隣に移動して同じように寝転がった。
「レオナはさ、どんな風に自分の買うスキルを決めたんだ?」
「端的に言えば、自分の好きを形にしたんだ」
ひゅ〜とそよ風が吹く。
心地良いその風に当てられながら、レオナは語った。
「私が元々持っていたスキルは特殊でね、ステゴロでの戦闘能力が著しく上昇する代わりに一切の武器を使用できないというものだったんだ」
「今のレオナからは想像出来ないな」
「私自身、あんな野蛮極まりない戦い方しか出来ない自分が嫌だったのさ。どれだけ頑張っても武器を扱えないと思い知ったあの時は、これでもかという程女神を憎んだとも」
「どうしてこんなスキルを与えたのかってか?」
「よく分かったね」
「俺も同じ気持ちだったからさ」
村で過ごした幼少期の頃を思い出す。
同年代のやつに喧嘩で勝てなくなったあの時を。
自分のスキルと他人のスキルを比べて泣きじゃくった時もあったっけ。
「そこで私はやけになったんだ。こんなスキルを持つ私でも扱える武器を作ってやるとね。そこから、制作の楽しさや目的に向けて試行錯誤する楽しさを知ったんだ」
「それを形にする為のスキルをロウヒから買ったって訳か」
「ああ。私はあの時からずっと、我武者羅に自分の好きを貫き通しているよ。それこそ、異世界の技術を再現してしまう程にね」
そういうレオナの声は少し自慢げだった。
なんだろう、少し思考がスッキリした気がするな。
「好きを形にかぁ。私もそれが良いと思うな」
俺達の会話に混ざる第三者の声。
空が映る視界にひょっこりと顔を表したのはアルさんだった。
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