第11話 傀儡人形

 「到着~」


 ロウヒの声を聞きながら、乗り物を降りる。

 先ほどまで空を飛んでいた物体は一瞬にして消え、アーミードールはレオナの棺桶の中に戻っていった。


 のどかな自然が囲う何もない平地。

 

 その先にある建物の扉から、一組の男女が姿を現した。

 もちろん、背中に棺桶を背負って。

 レオナと同じ黒いローブを身に纏った彼等は、笑顔を浮かべながらこちらに駆け寄った。


 「ロウヒさん。お久ぶりです」

 「や~や~二人とも。望んだスローライフは送れてるかな?」

 「ええ。おかげさまで」


 二人は恋人?

 いや、どっちかと言うと新婚夫婦みたいに見えるな。


 年は、俺やレオナよりは少し上って所か。


 「あら、この子が新人の子?」

 「あ、はい。ダンテと言います」

 「緊張しなくて大丈夫よ。私はアル。そこにいる旦那はエルよ」


 アルさんの紹介に合わせてエルさんが軽く会釈する。

 二人とも、穏やかな表情をする人だ。


 初対面だけど不思議と落ち着くタイプの人柄。

 そう感じるのは二人の声が優しく柔らかいものだからなのかもしれないな。


 「ここで話すのも疲れるでしょうし、家に入りましょうか」

 「部屋も3人分あるから荷物を先に置くと良いわ。その後リビングに着てね」


 そんな二人に導かれ、俺は木々に隠れている建物に入るのだった。



 「よし、こんなもんか」


 エルさんに貸してもらった部屋で荷物を整理する。

 とはいっても、ほんの一部の荷物だけだ。


 貴重品とか、服とか、最低2日の宿泊に必要な荷物だけ。

 他の物は全部ロウヒのスキルで保管してもらってる。


 家に置いてあったもの全部スキルで保管出来るんだもんなぁ。

 さすが魔王が与えたスキル、便利すぎる。


 「えっと、リビングだよな」


 これ以上部屋に居てもやる事なんか無い。

 それに、これからするのは俺の新しいスキルの話だ。


 『S級傀儡レッカドール。この子には特殊な炎を生み出すスキルが組み込まれていてね。黒炎に触れた物はみんな等しく劣化していくんだ。それが生物でも無生物でも関係なくね』


 『私のアーミードールは、ヴォイニッチが手記に残した異世界の兵器を再現する事が出来るのさ』


 あの二人の様に凄い力が、俺の理想を叶えられる力が、もうじき手に入る。

 そんな期待を胸に、俺は部屋の扉を開いた。


 「お、ダンテ氏~。どうやらタイミングが重なったようだね」


 隣の部屋の扉が開いたかと思うと、ちょこんと顔を出したレオナとばったり出くわした。


 「レオナもリビングへ?」

 「ああ。せっかくだ、ダンテ氏が迷わないように私が道案内してあげよう」

 「ありがとう。助かるよ」


 レオナの背中を追ってリビングへ向かる。

 

 部屋に行くときも思ったが、この建物は意外と広い。

 最低でも15人は泊まらせる事が出来る作りだ。


 外観を見た時は、そんな風に感じなかったんだけどな。

 それこそ、小さな町にある宿の方が大きかった印象すらある。


 まぁ、何かのスキルでそう見せてるんだろう。

 感覚麻痺しそうになるけど、女神様の教えに逆らってる俺達は犯罪者だ。

 ここが【ドールカルト】の拠点と町の中間地点であるならば、教王直属の部隊なんかに見つからない様細工をするのは当然と言える。


 「お、来たね」


 リビングに入るなり、俺達を迎えてくれたのはロウヒだった。


 広い空間に、大きなテーブルが一つ。

 複数人で団らんの時を過ごすにはもってこいのリビングだった。


 俺はロウヒに指定された席に座る。

 ちょうど、テーブルをはさんで彼女と向かいあう場所だ。


 俺は席に座るなり、ロウヒへ1万ギーネ分の銀貨が入った袋を手渡した。


 「改めて、俺はアンタからスキルを買いたい。その為についてきたからな」

 「はいは~い。ちゃんときっちり1万ギーネ頂くね」


 ロウヒが銀貨の入った袋を受け取る。

 そして、今度は俺に一つの紙を手渡した。


 その紙の見出しには『傀儡人形と3つのプラン』の文字が書かれてあった。

 傀儡人形ってのは、あのスキルを与えてくれる人形の正式名称ってところか。


 「私はあのクソ女とは違うからさ。スキルを買ってくれる人の理想に合わせた傀儡人形を売りたいって心がけてる。だから、傀儡人形はオーダーメイドの商品にしてるんだ」


 「なるほど……所で、そのクソ女って女神の事か?」


 「ん?そうだけど」


 『変な事言った?』みたいな顔されても困るんだが。

 俺も女神には思う所がだいぶあるけど、クソ女って言い切るのは流石だなと思う。


 「いや、何でもない。続けてくれ」

 「OK~。これからダンテ君にしてもらうのは『どんなスキルが欲しいのか』を明確にしてもらう事と『傀儡人形のプランの選択』をしてもらうよ。私はその2点を参考にして君専用の傀儡人形を作るから」


 プランって言うと、この紙に書かれてる奴か。

 これから長い間使う事になるスキルだ……後悔しない様にしっかりと考えないとな。


 ゆっくりと息を吸い、心臓の高鳴りを抑え、俺は彼女から渡された紙を見つめるのだった。



A級傀儡プラン


・強力なスキルを持つ傀儡人形を1体作成します。

・貴方が望むスキルがA級傀儡の性能を必要としない程に出力が弱いスキルである場合、製作者自らB級傀儡プランを勧めさせていただく場合がございます。

 

B級傀儡プラン

 

・出力の弱いスキルを持つ傀儡人形を2体作成します。

・一つ一つのスキルはA級傀儡にかないませんが、長年不可能と言われ続けてきたスキル2つ持ちを可能にするプランであり、組み合わせ次第ではA級傀儡と同等のスキルを上回る可能性を秘めています。

・貴方が望むスキルがB級傀儡の性能を逸脱する物であった場合、製作者自らA級傀儡プランを勧めさせていただく場合がございます。


EXエクストラ傀儡プラン


・スキルの出力に問わず、日常生活のサポートに特化したスキルを持つ傀儡人形を制作します。

・本プランの傀儡人形の数と形状は、保有するスキルによって大きく変動する場合がございます。

・貴方の望むスキルが日常生活のサポートに留まらない応用力を保有する場合、製作者自らA級、もしくはB級傀儡プランを勧めさせていただく場合がございます。



※S級傀儡について


・各プランの傀儡人形を一定以上使い込むと、S級傀儡と呼ばれる物に進化する現象が稀に起こります。

・現状、この現象がなぜ起こるのかは解明されておりません。

・S級傀儡のマスターは【ドールカルト】内では以下の3名です。


マスター名 ロウヒ・ドランホース

A級傀儡フレイムドール→S級傀儡レッカドール


マスター名 レオナ・エストタウン

B級傀儡ビルドール+B級傀儡インゴットドール→S級傀儡アーミードール


マスター名 ロレン・メディッチ

EX傀儡サーバントドール→S級傀儡メイドール

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