第10話 S級傀儡アーミードール

 七背にはそれぞれ二つ名が存在する。

 ロウヒの『黄金の魔女』と同じようなものだ。

 

 それは見た目や戦い方そのものを表したり、魔王が七背各々に与えた役目を表すものだったりする。


 故に、『〇〇の✕✕』という法則に当てはめてつけられる。

 この✕の所には『魔女』や『人斬り』や『巨人』など、種族的、もしくは役職的な名前が入るわけだ。


 「ふむふむ‥‥‥だがダンテ氏。その話とヴォイニッチにはどのような関係が?」


 俺の説明を聞きながら頷くレオナはそう言って首をかしげた。

 まぁ、あの態度を見る限りレオナの興味はヴォイニッチ90%、残りの7背10%と言った感じがするので、さっきまでの話はいささか退屈だったのかもしれない。


 だけど、ヴォイニッチの面白い所‥‥‥いや、規格外な所を話すにはこの二つ名の話はちゃんとして置かなければならないのだ。


 「実はな、賢者の二つ名を持つ七背は二人存在するんだ」

 「二人?一人いれば十分な気がするが」

 「そう思うだろ?これが実はなー」


 そう前置きをおいて俺はレオナに続きを話した。


 結論から言うと、魔王は最初の賢者であったヴォイニッチの知識を理解することが出来なかったのだ。


 ヴォイニッチは魔王から与えられたスキルを駆使し、未知の知識を得たと言われている。

 彼の得た知識はあまりにも現実離れしていて、仮にその知識がすべて本当であったとしてもそれを活かす術は無い。


 それでも彼は自分の知識を信じ、研究に没頭した。

 晩年には『私が見たのはおそらくここではない別の世界、異世界というものだったのだろう』と言葉を残し、全知識をとある日誌に残して死んだという。


 魔王はその日誌を読み、最後の最後でヴォイニッチの知識を応用した兵器を一つ、作る事に成功したらしい。

 

 その兵器がどんなものだったのかは今となっては想像も出来ないけれど、『音が聞こえた時にはすでに攻撃が終わっている』なんて芸当ができる代物だったらしい。


 「確か名前も歴史書に書いてたはず‥‥‥確か銃って名前の武器だったはずだ」

 「ほほう、魔王は私と同じく銃を再現することに成功したという訳か」


 ん?

 あれ、聞き間違いかな?


 さっき私と同じくとか言った?

 いやいや、まさかね。


 「非常に興味深い話だった。お礼に私も一つ面白い話をしよう」

 「面白い話?」

 「ダンテ氏はさっき『ヴォイニッチの知識を活かすのは不可能』と言っていたね」

 「ああ。まぁ、他の世界の技術なんかどうやって応用させればいいんだって話でー」

 「私のアーミードールは、ヴォイニッチが手記に残した異世界の兵器を再現する事が出来るのさ」

 「……マジ?」

 「本当の話さ」


 レオナは自慢げに眼鏡をクイっと上げる。

 「この乗り物こそがその証明になるだろう」と言いながら窓をコンコンと叩いた。


 空を飛ぶ小屋の様な乗り物、確かにこの世界には存在しない物だ。

 アーミードールが奇妙な格好をしていたのも異世界の服と考えれば納得出来る。


 「な、なぁ。それだったら銃って奴も再現できるんだよな」

 「もちろん。今度ダンテ氏に見せてあげよう」

 

 思わず歓声を上げてしまった。

 確か銃は力が弱まった晩年の魔王を支えたって記述が多い。

 でも、本によっては存在そのものを否定する説もあった。

 

 実在するか不明、姿も不明、分かっているのは化け物じみた性能だけ。

 それだけのスキルや知識を使っても解析できないと言われた歴史上未解明の謎の内の一つ。


 それを簡単に再現するスキルアーミードールを持った人物が隣に居る。


 歴史の生き証人であるロウヒと言い、レオナと言い、俺の心を高ぶる存在に立て続けに会えているのは幸運を超えてもはや奇跡だ。


 「お、ダンテ氏。もう中間地点に着くようだ」

 「もう2時間経ったのか?」

 「二人とも楽しそうに話してたし、そんなもんじゃない?」


 眠そうな声が俺の疑問に答えを返す。

 後を振り向くと、瞳を擦りながら「おはよ~」と挨拶するロウヒの姿があった。


 「ロウヒ氏はいつも丁度いいタイミングで起きるね。何か絡繰りでもあるのかい?」

 「ただ単に体が覚えてるだけだよ」


 二人がそんな話をしている間に、乗り物がゆっくりと降下を始めた。

 窓の外から見えたのは、木々に囲まれた何もない土地。

 その土地の右端には、自然に隠れる様に一つの建物が立っていた。


 「よし、それじゃぁ到着したら始めよっか」

 「ん?何かするのか」


 俺がそう聞き返すと、ロウヒはニヤリと笑顔を浮かべた。


 「そりゃぁもちろん。ダンテ君の新しいスキルの話をするに決まってるでしょ」

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