第6話 黄金の魔女

 「本当に……アンタはあのロウヒなんだな」

 「今まで隠しててごめんね」


 ロウヒは防護壁となる盾の塊を金の沼から引き上げた。

 冒険者達の攻撃をその防護壁で守り切り、彼女は俺の居る方へ歩いて来る。


 「それでさ、私は改めて君の答えを聞きたい」

 「ロウヒ」

 「私と一緒にこの世界を変えよう、ダンテ君。君の望むスキルも、君と同じ考えを持つ同胞も、私が全部授けてあげるからさ」

 「本当に……女神様から恵まれなかった俺を、助けてくれるんだな。お前は」

 「へへ~。女神が君を見捨てたって言うんなら、私が君を救ってあげようじゃないの」


 そう言ってロウヒは右手を差しだした。

 

 今の俺に、その右手を拒む理由は1ミリも存在しない。

 たとえこの決断が世界を敵に回す行為になったとしても構わない。


 俺は彼女と一緒に変えたいんだ!!

 俺の人生を、この間違った世界を!!


 「君ならこの手を握ってくれると思ってた」

 「へへ。これからよろしー」


 ニッコリと笑うロウヒを見つめて、これからの話をしようとしたその瞬間の事だった。


 「この瞬間を持ってあのバカを女神様の反逆者としてみなす!!俺が前にでる、遠隔攻撃が出来るスキル持ちはサポートしろ!!レミールはこの場から離れて王都に報告する書類を書きに行け!!」


 俺はその大声で現実に引き戻された。


 アッシュが力強く地面を蹴る音が響く。

 アッシュの持つ剣がロウヒの作った防護壁に接触する。


 「吹き飛ばせ!!【拒絶の大剣】」


 アッシュの叫び声と同時に、あいつの持つ剣が白い光を纏った。

 スキルを絡めた剣技だ。


 確かアッシュのスキルは……『武器が触れた物を弾く』スキル。

 まさか、あの防護壁を吹き飛ばす気か?!


 「おっと、あぶない」


 瞬間、ロウヒが俺の体を引っ張った。

 その数秒後、アッシュに吹き飛ばされた防護壁が俺達を襲う。


 「防ぎやがったか。棺桶でガードするとは、とことん外道な女だな」

 「だ~か~ら!!これは普通の棺桶じゃないんだって」

 「んな事はどうでもいい。鬱陶しい防御壁は俺が剥がす。お前の悪行もここまでだ」


 一歩、また一歩とアッシュがこっちに近づいて来る。

 

 「にしてもダンテよぉ。俺達はお前がいつか女神様へ反逆するんじゃないかとは思ってたんだぜ。なんせザコスキル持ちの負け犬だからな。でも、何とか仕事をしてるから見逃してやってたんだ。分かるか?俺達の寛大さが」


 「何が言いたい」


 「結局女神様に見捨てられたクズはクズだったってこったな」


 「へぇ……」


 知らない感情が心の中で暴れ回っている。


 それは今まで貯めていた不満と怒りを混ぜ合わせた爆弾の様な感情。

 ザコスキル持ちの俺が持っていても仕方ないと理屈を付けて抑圧していた感情。


 「んじゃ、弱いスキルの人間をいじめるクズは女神様からお咎めなしなんだな」

 「なんだと?!」


 アッシュに口答えしたのなんて初めてだ。

 だって怖かったんだ。

 いつ報復されるか分かったもんじゃないし、俺のスキルじゃ逆立ちしても敵わないから。


 でも、今の俺は違う。


 俺の事を救ってくれると言ってくれた人がすぐそばに居る。

 俺の望むスキルを1万ギーネで売ってくれると言った魔女がすぐそばに居る。


 もう、俺はアイツに怯える必要は無いんだ。

 俺が本気で人生を変えるなら、ちゃんと言葉にして示す所から始めないとな!!


 「もうお前みたいなクズにペコペコするのはうんざりなんだよ」

 「て、テメェ!!」

 「俺はもう我慢しない。自分の考えも理想も抑圧しない。こんな世界も女神様も大っ嫌いだ!!俺の命は、俺を救ってくれる人の為に使わせて貰う!!」


 こんな大声を出したのは久しぶりだ。

 村の奴らからはどう思われてるんだろうな。


 みっともないのだろうか?

 それとも女神様を侮辱した愚か者に見えるのか?


 でも、そんな事はもはやどうでもいい。

 今俺は最高に気分が良いのだから。


 「無関係な人間を巻き込むと王都への申告書が面倒になるからあえてスキルを使えわなかったが……ダンテはもう反逆者も同然だ、ぶっ殺しても文句は言われないよなぁ!!」


 咆哮を上げてアッシュが走る。

 また剣が白く光ってる。

 あのスキルを絡めた攻撃で俺達をとことん攻めるつもりか。


 「あんなに熱烈な告白されたら、私も頑張らずにはいられないよね~」

 「ロウヒ?」

 「歴史好きのダンテ君に見せてあげよるよ。黄金の魔女の戦い方って奴を」

 

 そう言ったロウヒの手には、あの人形が保管された棺桶。

 彼女はそれを鈍器の様に構え、不敵に笑う。

 

 「用はさ、あの剣に触れさえしなければいい訳じゃん」


 ロウヒが強く地面を蹴る。

 彼女は両手に持った棺桶を器用に動かしながらアッシュとの距離を詰め、棺桶の角をやつの腹にぶち当てた。

 

 「てめぇッ、なんだその動き?!」

 「ちょうどいいや。この戦いで私の商品の実力をダンテ君にアピールするとしよう」


 ロウヒは器用に棺桶を回しながらアッシュを翻弄し、その巨大な体躯を引き離す。

 彼女は冒険者との距離が開いた事を確認し、棺桶を地面に対して垂直に置く。


 右手の中指に銀色の指輪をスッと付け、ロウヒは棺桶に向かって叫び始めた。


 「スキル解放。S級傀儡レッカドール!!」


 ロウヒの右手から紫色の糸に見える何かが飛び出し、棺桶に絡まった。


 それに合わせて棺桶の扉がギギギと音を立てて開く。

 そこから現れたのは、黒色の炎を纏うゴシック調の服を着た等身大の人形だった。

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