第7話 S級傀儡レッカドール

 黒い炎が煌々と燃え上がっている。

 炎の出所はあの人形から。

 俺とロウヒを守る様に炎が広がっていく。


 俺はロウヒの話を疑ってはいなかった。

 もちろん、心の底から魅力的な話だと思っていたとも。


 でも、その実『スキルを買う』という常識離れした話に現実味を感じていなかった所もあった。


 だけど今、あの人形からスキルが発動している様子を目の当たりにして俺はやっとロウヒの提案を実感することが出来る。


 人形を買えば、スキルが手に入る。

 村の冒険者達を圧倒出来る様なスキルを得ることが出来る。


 俺も、目の前のロウヒみたいに活躍出来るんだ!!


 「すげぇ」


 それ以外の言葉は出なかった。

 ドクドクと熱を帯びる胸の高鳴りを抑えられなかった。


 「うろたえるな!!俺のスキルがあれば、炎なんて脅威にはならねぇ」


 アッシュが声を上げ、剣を構えて突進する。

 さっきと同じ様に白い光を纏った全てを弾く剣が刻一刻と迫って来る。


 ロウヒは右指の先から伸びる紫色の糸の様なものをクイッと動かした。

 それに連動して、レッカドールと呼ばれた人形が動く。


 ロウヒの意思をくみ取ったかのように人形は構えを取り、アッシュに向かって黒炎を放った。


 「無駄だ……【拒絶の大剣】!!」


 ガン!!と重々しい音が鳴り響く。

 アッシュはレッカドールの放った炎を軽々と上空に弾き飛ばしてしまったのだ。


 手ごたえを感じたのか、アッシュはニヤリと嫌な笑みを浮かべる。

 奴の勢いは収まることなく、そのままレッカドールを切り裂こうとしていた。


 「女神様を冒涜するその人形、今すぐ叩き切ってやる」

 「その剣じゃもう不可能だよ」


 アッシュの剣がレッカドールの頭に触れる。

 そして次の瞬間ー


 「何?!」

 

 アッシュの剣が一瞬にして錆び、塵となって砕けた。


 「もしかして、これもあの人形のスキルなのか?」

 「お、ダンテ君冴えてるね」


 予想外の出来事に困惑するアッシュ。

 あいつがこんな表情を見せたのは初めてだ。


 「S級傀儡レッカドール。この子には特殊な炎を生み出すスキルが組み込まれていてね。黒炎に触れた物はみんな等しく劣化していくんだ。それが生物でも無生物でも関係なくね」


 ロウヒが右腕を上げる。

 するとレッカドールから放たれる炎がブワリと肥大し、目の前の冒険者達を包んだ。


 「この子のスキルの良い所は炎の操作が簡単で威力の調整を精密に行えること。だからこうやって、一切傷を負わせずに相手を無力化するのもわけないのさ」


 パチンとロウヒが指を鳴らす。

 その音を皮切りに黒炎がサッと晴れる。


 そして現れたのは、装備を全て壊され丸裸にされた哀れな冒険者達の姿だった。

 

 「うそ……だろ。女神様に反逆する恥知らずに惨敗するなんて」

 「あんな女の何が良いの?あれ、知れば知るほど邪悪な存在だよ」


 ロウヒは呆れたようにそう言って冒険者達を見渡した。

 ため息を吐きながら、レッカドールを棺桶の中に戻していく。


 「君達が女神を頑なに信じるならそれで良いけど、絶対に後悔するからね」

 

 それだけ言葉を残すと、彼女はクルンと振り返った。

 彼女の背中から黄金の液体が流れ、俺の部屋へと侵入していく。


 「これから俺はどうすればいい、ロウヒ?」

 「ダンテ君には私が立ち上げた一緒にこの世界と戦う組織に入ってもらうよ。まずは組織の秘密基地に行こう」

 「そりゃいい。この村より住み心地が良さそうだ」

 「へへ。君の荷物は私がこの黄金の中でちゃんと保管しておくね」


 彼女がそう言う頃には、黄金の液体は俺の家から抜け出していた。

 きっと中はもぬけの殻になっているのだろう。


 「無駄だ。お前達が起こした事はレミールが必ず王都に伝える。どれだけ走った所で、次の町に着く前に教王直属の部隊に捕まるだけだろうよ」


 「バカだな~。ちゃんと対策してるに決まってるじゃん」


 ロウヒはそう言うと手をパンパンと叩いた。

 すると、地面の一部が黄金の沼に変化した。


 「お~い、レオナちゃん。逃げるよ~」


 なんでこのタイミングで人の名前を?

 そんな疑問を浮かべたのと同時に、その答えが目の前に現れた。


 「は?!」


 なにせ、ロウヒの作った黄金の沼から黒いローブを着た丸眼鏡の女性がニョキっと現れたのだから。

 

 ぱっと見た感じ俺と同じ年に見える女性。

 彼女もロウヒと同じ様に、背中に棺桶を背負っていた。


 「や~や~ロウヒ氏。ようやく私の出番かな?」

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