第53話 七宝クリーニング

刀装具は大部分は金属により作成されていますが、一部では七宝の技法で作成された品物があります


有名なところで平田七宝があり、こちらは重要刀装具にもなっている品物を幾つか見たことがあります


以前ですが、刀装具に興味が無かった頃に、一度だけ地域の習い事教室の一環として七宝製品を作った事があります


七宝、簡単に言えばガラス細工です

トヨタ2000GTのオーナメントも確か七宝で作られていたと記憶しています


私が習ったのは有線七宝で土台になる金属の上に金属の極薄板を並べ、その薄板のラインに合わせてガラスの元の色砂を溶かした釉薬を塗ったり盛り付けたりした後に電気窯に入れて焼き付ける事になります

釉薬は熔けてラインに沿った形に残り、後は形を整えて磨きをかけます


この作業では電気窯が大変に重要な意味を持っています

小さなモチーフばかりでしたから小型の電気窯を使用しましたが、それでも内部は真っ赤に焼けた状態でガラスが溶けるのですから大変な高温です

小型の電気窯で焼き付けをする部屋は3㎝×10㎝×奥行15㎝程度しか広さがありません

ブローチ一つを作るのにも大変に細かな神経を遣ったのを覚えています


だからこそ、平田七宝は一体どのようにしてガラスを溶かし、尚且つ綺麗に整えたものかサッパリ想像が付きませんでした

窯を使ったのは間違いないでしょうが、設定温度や釉薬、薄い板線の作り方、縁頭の七宝など当時はどのようにして熱を加えたのか不思議です


今回はたまたま入手したボロボロに錆びついた七宝の縁頭のサビを落としてみたいと思い立ちました

このままならば間違いなく捨てられてしまう品物でした


錆びは簡単に落とせるだろうとタカを括っていましたが今回の錆びは強烈でびくともしません

ちょっと変わった手法で錆びは粗方落とせました、

ところが肝心の七宝の部分は私の想定を超える脆さでした

本当に極一部、0.1㎜単位なのですが、簡単に欠けてしまうのです


ガラスだと思っていたのですが、この当時の焼成技術は現代の電気釜作成の七宝とは比べようも無いほどに脆い出来なのが分かりました

ポロポロと欠けたり取れたりしてしまいます

実物はシッカリとしているのに、です

実体顕微鏡で見ながらなので良く分かります

恐らく釉薬も不純物が多く、焼成温度も低い為に起こる現象なのでしょう


重要刀装具の平田七宝もよくよく考えれば、小柄や縁頭、場合によっては鐔なども拝見しますが、実用的に使われる品物では無い事が今回は良く理解出来ました


やはり、この時期に作られた品物ですから実用よりも派手さを重視した品物であったと思います

実戦の斬撃があったら、かなり高い確率でボロボロになってしまうハズです

町彫りとしてこれらの材料まで取り込んだ意欲は買いますが、いわゆるガラス製品と同一です

平田七宝は手のひらの上で大切に御仕覆に乗せて眺める品物なのでしょう


刀装具といってよいものか、悩むシロモノです

















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