第39話 美濃彫り①
後藤家について前回は簡単に説明しましたが、後藤祐乗のルーツにも深く関わる『美濃彫り』についても触れてみます
美濃というと刀剣の分野で五カ伝を想起しますが、実は刀装具にも美濃と呼ばれる作域 があります
作成場所も美濃地方に根付いたものと考えられていて、発祥は京都地方からの金工刀工の移住が上げられます
応仁の乱はかなり緩やかでのんびりとした小競り合いが長ーく続いたようです
激しく一気に戦った訳では無かったらしいのですが小競り合いといえど、住宅を焼き討ちされるケースもあったらしく治安は悪化したであろうと思います
その治安悪化が原因か分かりませんが、足利義視父子を始めとして商工業、文化人たちは戦乱を逃れて美濃に移り住んだと言われています
美濃の刀装具は鐔や縁頭、小柄、笄その他と刀装具的には全種類が揃います
(太刀拵えも含んで一時代を作った大きな作域 でした)
作品の特徴としては、秋草などを主体の題材にする事が多くて、その場合にはモチーフを深く鋤き下げます
材質は赤銅(しゃくどう)が主で鉄地はほとんど使いません
鐔は切羽台、耳を鋤き残します
笄や小柄の場合は上記の様に深く鋤き下げます
目貫以外には魚々子を打ちます
製作年代については区別が微妙なのですが、いわゆる【古美濃 室町から桃山時代頃】と【美濃彫り 以降、江戸時代初頭にかけて】に分けられます
私が興味を持ったのは当然、古美濃の方です
何しろ色と言い、モチーフと言い、雅味がありますし特徴も実物を見ないと本当の面白さは分からないかも知れません
黒々と色揚げされた刀装具はとても渋く、場合によっては可愛らしい品物が多く感じられます
先ほど、古美濃は深く鋤き下げると書きました
この鋤下げが異常なほどにモチーフが切り立って作られているのです
通常はモチーフの秋草を彫金したとすると多少は立体的に作っても長く使い続けると手擦れや欠けなどでデザインや模様は判別が付きづらくなるものです
ですが、古美濃の場合には立体的なゴシック体の文字をイメージして頂くと良いのですが、一本の線を作ったとして、その線は羊羹のように立体的に表現されています
秋草にとどまらず、海産物をモチーフにする場合も殆ど立体的な図柄となっています
これは文章では中々伝えきれないのですが、最初に古美濃の笄の作品を拝見した時のショックはとても大きかったです
一方で私の私感では美濃彫りの出来は鋤き下げが少なく、彫り自体も簡単でそれほどのインパクトも無く、時代が下ると作者の銘が入れられた品物も出てきたりします
秋草や動物をモチーフにしてはいますが、使われた痕跡がアリアリとしているものが殆どで擦れや欠損が多く、見た目の味は出ています
それほど入念に作成された品物とも感じられず、古美濃との作成の関連に作られた地域は一緒でも両者の出来上がりの品物の断絶が著しいです
稀に使用感の無い品物もありますが、総じて拵えに付属すれば、ぱっと見は良いとは思いますが、一点一点を分解したとして興味がそそられるほどの品物には感じられないというのが本心です
古美濃と美濃の違いですが、私が思うところ刀剣も刀装具も道具・武器です
刀剣には五カ伝(大和、山城、相州、備前、美濃)の大まかな産地があります
道具を武器として捉えた場合には物資を調達するのに遠方から支援するのでは戦争にならない訳です
間に合わないばかりか、遠方で作らせた武器を略奪されたら自分にその武器の刃が突き付けられる訳ですから権力者は手近な場所に物資調達のキャンプを必要としたと考えます
時代により、政府や幕府、権力者の住まう場所は変化していった訳ですが、たくさん物資を作成し安定供給するためには多くの産業集団が形成されたはずです
これが、北条氏の頃ならば鎌倉相州だった訳ですし、戦国時代の覇者、織豊時代には美濃、尾張を拠点としたはずです
大和、山城、備前も同様です
話を戻すと、古美濃の時代には戦乱や戦の準備といえども先ほどの応仁の乱の戦時状況からしてみても、まだ戦う両者共に余裕があったのではないかと推測します
従って良い品物を時間を掛けて作らせることが出来たと推測します
一方で、織豊時代には武力を持って戦う専門集団を彼らは独自に作った訳です
戦国時代といえど、尾張地方以外の地方豪族達は農閑期に戦をして農業最盛期には農業に力を入れる為に兵力が農民に変わらなければならなかった訳ですから、この差は大きかったと思います
その際に、専門の武力集団が使う武器を急激に製作しなくてはならなかったハズで美濃の産地が時間を掛けて作成出来たのは、精々が幹部クラスの刀装具や刀剣だったでしょうし、数打ちモノとして入念作は自然と少なくなったのだと推察します
戦争で費消された刀剣刀装具が大切に伝来するわけも無く、幹部クラスの持ち物が残されて今に伝わるのかも知れません
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