第38話 後藤 家彫り②

前回、後藤の上三代の話について書きましたので、今回は簡単にそれ以降の代についても簡単に書きます


以前の協会では上三代は本当に、祐乗・宗乗・乗真の三代を指していましたが、いつの頃からか拡大して五代までを上三代として据えています

つまり、四代の光乗・五代の徳乗までを指すようになっています

無銘の後藤の作品を自信を持って個人名まで極めた時代の証書と比較すると、何と奥ゆかしい極め方でしょう


決して自信が無い訳では無くて今の協会は科学的に見極めようとする流れがあるようです

口さがない人によれば今の協会の審査は刀装具を見極められる目を持っていない、という方がいますが、それならば今よりもっと良い品物を集める事で解決していけそうです

中途半端な品物を持つのではコレクターとしてはいけないのだと考えます


さて、その後の後藤十七代を一応書いていきます


再度初代から

 祐乗・宗乗・乗真・光乗・徳乗・栄乗・顕乗・即乗・程乗・廉乗・通乗・

 寿乗・延乗・桂乗・真乗・方乗・典乗 

                 以上となります


落語の寿限無みたいですが、全て当時の後藤家を率いたトップの人の名前です


共通するのは初代祐乗の乗の字をずっと続けている事です


権威・権力が大きくなるとその組織は活動自体を維持できるように触手を伸ばすように家系図を増やして勢力を伸ばしていき人も増えます

後藤家の場合には本家以外にも四郎兵衛家、喜兵衛家、長乗、七郎兵衛家、悦乗、理兵衛家、寛乗、八郎兵衛家、覚乗、勘兵衛家、殷乗、七郎右衛門家、泰乗、治左衛門家、林乗、半左衛門家と、分家が覚えきれない程に出来上がりました

さらにこれらの家々には子弟門人がそれぞれの分担で流れ作業をした訳ですから、当時はさぞや一大産業だった事でしょう


ちなみに書いておきますと、この後の金工群としてもいずれ書きますが、有名な後藤一乗(いちじょう)は上記の寛乗の弟子ですし、町彫りの始祖の宗珉(そうみん)もルーツは上記の殷乗を師匠筋として始まりました

後々の町彫り自体も後藤家の隆盛無くしては語れないものと思います


家系はともかくとして、後藤の刀装具の特徴として上げると

 鏨が太く彫り口が大変に大まかです

古い作になると、前回に書いた『山高く谷深し』という立体的に高く深く、場合によっては裏行きもオーバーハングするほどの品物も見ます

目貫も材料自体を大切にしたのか、出しへしが自在に行われていて裏行きを拝見するとヘリがとても薄ーく伸ばして均一では無く、材料の性質を見極めながら作られている場合を見かけます

特に金無垢の品物では透かして見ると薄く伸ばした箇所が場合によっては薄っすらと極小さな穴が開いているのを見た事もあります

勿論、入念作の場合は金無垢もたっぷりとした肉置きをしていますが、これは単純な話ですが発注者の懐事情が大きいのではないでょうか


上三代頃の作品でも現代からすると

《何でこんな図柄を彫ったんだろう? 》と思う意味不明な図柄が多くあります

小柄の図柄などは鷹狩の道具はまだ分かっても、大根や貝尽くし、魚尽くし等々、理由が分かりません

もしかするとダジャレなのかも知れないですね


古金工などでも鐔の図柄でブドウと栗鼠が彫られているのが

[ブドウにリス]を【武道に律する】と掛けて武士の精神を表す、だなんてダジャレ以外の何物でもありません


 人の顔も彫ったりしますが、女性の顔でも鏨をチョンと打ちこんで表情を表します

後代の後藤の品物は作り手の技術自体が落ちたのか、裏行きも赤銅を使った場合でもヘリが分厚くなってしまい材料云云以前に薄く作るだけの技術が落ちて行ったのでしょうか

ですが、さすが後藤の家彫りは最後まで家伝の工法を一貫して伝承していった点が素晴らしく、今考えても気の遠くなる話です


後藤の家彫りでは獅子や龍が彫れて初めて一人前だとされたようです

それだけの彫りに関する技を上三代では確立したわけで、この後の大勢を占めるムーブメントの町彫りであっても、古作にはちょっと敵わない雰囲気を持っています

実際の話、幕末明治の名人である加納夏雄も懐には上三代の後藤の目貫を忍ばせて帝室指導員として生徒たちにも後藤の作品の素晴らしさを説いたらしいです

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