第37話 刀装具の変遷 後藤 家彫り①
刀装具のデザインについて作者や作域 について少しずつ纏めてみます
先ず、時代の流れ的に刀装具の変遷を書くと例外を除いて考えた場合に、
刀装具の作者を定義づける際に、後藤祐乗[ごとうゆうじょう]より以前か、後かという事を定義づける事になるかと思います
ACや BCの表記みたいですが、その位のインパクトを業界に与えた作者でした
祐乗以前の作域となると銘が刻まれていないので作者の特定が困難です
《美濃彫り》や《古金工》と協会で区別する作域 、更に古い時代は《太刀師》という作域 があったようです
奈良、平安、鎌倉、南北朝期の刀装具は太刀師による作だと言われています
とても渋いとは思いますが、私の趣味はこの域には達していません
さて、刀装具の分水嶺である後藤祐乗は元々美濃彫りの出自であったと書物で読んだ事があります
確かに祐乗の作品を見ると、古美濃の雰囲気を感じますが、後藤の品物は明らかに『山高く谷深し』と表現されるように横から見た際の立体的な表現が美濃とは違い更に誇張されていると感じます
獅子や龍、さらに生活に関連する縁起モノを題材にした刀装具を多く作成しました
祐乗は後藤流を確立し、時の政府の要人に取り立てられ、VIPの所有する刀剣を飾る刀装具作りを一手に引き受けることになり一族は大いに繁栄することになります
これらの作域を【家彫り・いえぼり】と称します
注文主は主に足利徳川家だった訳で、それ以外に作成はしないのですから、
お家の為の彫り物となり、主に江戸時代まで十七代!!に渡り作成し続けます
とても安定的に発注してくれるパトロン、今流に言えば太客だったわけです
後藤の刀装具の作者を特定するのが困難な理由の一つがこの家彫りにあります
発注者は政府や大名、それも高官だった訳で、敢えて買主に対して作者の名前は刻んでいません
『わざわざ名前を入れなくても貴方が私に依頼したのだから分かるでしょ』と、そんな感じでしょうか
或いは、良く本に書かれているように注文主に敬意を表して名前を入れなかった説、もありますが適当ではない気がします
刀でも刀装具でも最初の頃は作者と発注者の意志は共通だったはずです
お互いがそれで良し、としていただけのような気がします
寿命の短い人間と違い、刀剣刀装具は大切にされれば千年を優に超えて保存が利く品物です
代々継承されたりする内に格式や家格、もっとこなれれば部下への下賜の品物としても役割を果たすようになっていく訳です
こうなると、品物の価値を定義づけたり、作者が誰なのか?という事にも意味が出てきます
始祖に近い作者の方がより価値があると考えれば求めるのはそれらの品物だったでしょう
つい最近までは、後藤家初代が祐乗で、二代目を継いだ宗乗(そうじょう)、更に三代目の乗真(じょうしん)迄を上三代(かみさんだい)として尊ばれてきました
更に言えば、作者の氏名は刀装具事態に刻まれていない事が常識でした
五代目の徳乗(とくじょう)以降から作者を特定する証書【折り紙】を発行するようになります
この折り紙は後藤家の後代の子孫たちが毎月七日に本家宗家に集合して合議制で過去に作成された品物の作者名を類推して極めて、鑑定書として発行したものです
今でも折り紙付き、という言葉はありますが語源はこれですね
二代ならば、自分が作っていなければ初代以外に無く、三代ならば自分が作っていなければ、初二代のどちらかだろうと推測できます
しかし、作成から数十年、或いは百年近く経過した品物の制作者を例え親戚筋であったとしても完全に鑑定する事は難しいのではないでしょうか?
始祖を尊び、類似のデザインや品物を真似し続けた家彫りは細かく精査すれば確かに違いが分かりますが、果たして100%完璧であろうはずが無く、品物の優劣は勿論ありますが伝来や折り紙頼みになっていったのは 間違い無いのでは、と感じます
ちなみに後藤家が発行した折り紙について、注文主に渡す前に品物の特徴を詳細に記した手控え資料が現在も東京藝術大学に所蔵されています
その枚数が驚きの4万枚もあるらしく、まだ虫食い状態なので補修をしてから近年には展示が出来るらしいことは藝大の職員さんに聞いた話です
しかし、これだけの枚数を発行するという事はどれだけ人々が権威付けを欲しがったのか分かります
刀剣で言えば本阿弥家の折り紙もそれにあたり、贈答や賄賂にも活用されたようですから折り紙の制度を考えた最初の人は潔い人であったと思います
今回は簡単にかいつまんで後藤モノについて書きました
多分次回に続きます
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます