第27話 鉄鐔の錆びについて
刀装具も刀剣も大部分が金属から成り立っています
太刀師、古刀匠、古金工等々の刀装具は刀剣を作成した際の余りの二級品の鉄を再度加工して作られたモノのようです
刀もそうですが、鐔も鉄から作られてきましたからサビには滅法弱いです
見た目も悪くなり、実用的にもサビはあらゆる機能を衰えさせます
当時の刀剣を扱う人間は相当な数がいましたが、現代とは比べようも無い位に手入れには気を使っていた事が容易に想像が出来ます
何しろ数日間、抜き身のままで放置していれば保管場所にもよりますが簡単にサビの最初の現象が発生してきます
更に放置すれば時間を置けば置くほどサビが進行していきます
ここでいうサビは全て(赤錆び)です
サビには簡単に言うと良い錆びと悪い錆びがあります
赤錆びは悪い現象であり、一旦錆びが出ると鉄の内部に徐々に食い込んで浸食していき、やがては本体をボロボロに酸化して腐食させてしまいます
一方で良い錆びがあります
この錆び色は黒くサビが付いて変色しています
この錆びは実は自然に出来る現象ではありません
先人が入念に手入れを繰り返して金属をサビから守る為の知恵として編み出した作業、とも言えると思います
この黒錆びは鉄の表面を意図的に酸化被膜で覆い赤錆びから守る為のガードの役割を果たします
一旦錆びさせてしまったものは研いで本体を減らす以外に方法は無かった時代です
今の錆び転換剤のように赤錆びを黒錆びに出来る薬剤など無い時代の品物です
この黒錆びには簡単な処理なら火であぶるだけの簡単な酸化被膜もあります
さて、ここまで簡単に錆びについて書きました
最近、私の出入りしている会社の社長から鉄鐔を買ったので近くに来たら見に来て、と言われました
この方は昔から鉄鐔が大好きなのですが、何故か記内鐔や山吉にばかり拘っていらして、知り合いから紹介されて安い鐔を買った際も古刀匠鍔は趣味に合わなかったらしく、良い雰囲気の鍔だったのですが古刀匠鍔は放置したままでした
今回も仕事場に立ち寄りしたところ、鐔を3枚購入したとの事
入手先はよくある蚤の市のようなレベルです
一枚はやはり記内鐔です
入記内だとご本人が言われているのですが、私にはハッキリ真贋は分かりません
購入金額を聞いたらイメージの数倍でした
これは完全に手玉に取られているパターンです
次の鍔は山吉を二枚でした
古い鉄の鍔は現存することが難しく傷つけば再び沸き直して再利用されるものだそうです
拝見した鐔はかなりハッキリと山・吉・兵と読める状態でした
更に、短刀用なのかサイズも小さく規則正しく凹んだ窪み穴が表裏に8か所ずつあります
かなり規則正しく窪みも均等な力で叩かれたような風です
社長には申し訳無かったのですが、今回に限って私見ですが悪い点を2つだけ
(もっとありますが)言わせて頂きました
まず一点は窪みの部分です
鍛えた鉄をこれだけの均一な間隔と深さで、均一な穴になるように窪みを人力で付ける事は困難で、おそらくプレス機を使った品物である事
もう一点は先に書いた錆びに関する事で、黒錆びが乗ってはいますが風合いに違和感を感じて思わず鐔の匂いを嗅いでみました
大変に嫌-な、頭の痛くなるガンブルーの匂いがします
よくよく見れば部品屋さんで良く見る鉄の表面の質感に酷似しています
ガンブルーは私自身がかなり前に山吉鐔を自作した事があるので作り方も含めて良く理解出来ます
かなり良い出来になって、ぱっと見は素人には分からない出来になってしまいました
ただ、匂いだけはガンブルー独特の匂いが残ってしまい洗浄しても日にさらしてもどうやっても落ちきらなかったものです
ですから間違いなく、最近の工業鉄をプレスに掛けてガンブルーで黒染めしたもので確定でしょう
買われた金額を聞きましたが、その金額があれば家族で軽く遠方に一泊旅行出来そうです
正直に伝えましたが少なからず動揺されていました
この方は以前も清磨(贋作刀)を高く買われていましたので、この癖は中々直らないかも知れません
おそらく年末頃にまた怪しい品物を買われる事と思います
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