第26話 三年坂美術館

刀装具を趣味としているのに、未だに各地の有名美術館には殆ど訪問をしていません


【佐野美術館】は刀剣主体で行った事はありますが、刀装具では行ってません

ここには後藤の十七代の揃いの小柄のコレクションがあったり、津尋甫(つのじんぽ)の縁頭があったりしますが、実物は未見です


【協会本部の刀剣博物館】は今年の正月に審査結果の品物を引き取りに行きながら刀装具を見て来ました

夏雄は雀が海の波間を飛ぶ縁頭作品も良かったですが、一番気に入ったのは柴原壽良(としなが)の豪華な拵えでした


東京の【国立博物館】にも名品があり、【静嘉堂文庫美術館】にも刀装具があり、【根津美術館】にも光村コレクションが収められています


最近勢いが良いと感じるのが京都の【三年坂美術館】です

建物はさほど大きくは無いものの、そのコレクションは最近始められたにしては膨大ですし、収集している金工作者も町彫りや明治金工に主体を置いているようで、綺麗な作品が多いと思います

丁度西暦2000年の年に開館されたばかりです

村田製作所の役員でもあった現在の初代館長の村田理如氏が個人的に30年来に渡り蒐集してきたコレクションを始めとして、その凄まじい程の熱量で名品を集められています

村田製作所の役員をされていた方が始められた趣味なので財力も申し分無いですし、何しろ集められた当初は今よりも刀装具の値段も違いました

村田氏が集められた為に相場が上がった、とも言われています


定期的に催事も行ったりしているようで、近いうちに訪問したいのですがどうしても二の足を踏んでいる理由の一つにインバウンドの訪日外国人客と日本人の観光客の多さがあります

コロナ前に京都方面に行った際に人の多さにも驚きましたが、それにも増してその後のコロナ禍を経てからの京都各地のライブカメラを見ると明らかに人が多く、地面も見えません


未だ収束しない新コロナもそうですが、インフルエンザやその他海外から持ち込まれるモノもあるでしょうから気持ちが『よし、行こう!』とならないのです

もう少し時間を置いてから行った方が良いのかもしれません


行けないな、と思ったので、ネットで以前から気になっていた三年坂美術館の書籍を古本で購入しました

数年前に刊行された書籍ですが、定価がそもそも高く(18000円!) 古本を探すと定価以上の品物ばかりです

中には3万以上するようなモノもあったりするので買えませんでしたが、たまたま検索にヒットした品物が思いの外に安くてついつい買ってしまいました


自宅に到着してそーっとページを捲りながらその内容に感心しました

名品揃いなのは分かりますし添えられている写真も大型で綺麗なのでハッキリと品物が分かります

ただ、何点かの品物については(本物と違わないか?)と確信出来る品物もあったりしました

品物は良いけれど銘がダメ、だったりするレベルのものです

私も購入した品物を審査に出してダメを喰らってしまい、協会職員に何がダメな点だったか?を聞いた事があります

この何点かの掲載作品にはそのダメな理由にズバリ合致してしまう品物が掲載されていました

数寄者の方に聞いてみると、当初の出入り業者が適当な品物を入れていたような話を聞きました

今は使われている業者の方を変更されたようで買う側も眼が利くようになってレベルも上がったようだ、との事


金工作家も大銘になれば弟子も取るようになりますし、自分の名前を作品に刻むのはその弟子筋の人間達が大部分を作っておいて師匠が名前だけ入れるようになるのも海外、国内問わずに良くある話です

ガレやドーム、ラリックでも製作工房があります、国内金工も後藤家の作業として本人が全てを作る入念作も勿論ありますが、有名になって注文に応じる為にはどうしても分業にする他、無くなります

下職たちが作り上げて師匠の名前で世の中に出た作品はたくさんあります

後藤一乗などもかなりの現存作品がありますが、全てを作り上げられる訳が無く、一乗工房として当時は相当流行ったことでしょう


それらの弟子筋の人間も段々とレベルが上がると師匠の作品と変わらない出来を作り上げる様になり代作も当然行います、代作代銘すらあります

刀剣にだって代作代銘はあります

何となく想像するのは美術館の初期か個人蒐集時代にこうした代作の品物を納められてしまったのかな?と感じました

全くの偽物の筋ではないけれど本人の作品とは違う、ということです


増々今後もレベルの高い品物を集められる事と思いますが、初代館長以降の方にも熱量が伝播する事を期待します

一方で美術館運営は難しいとも思います

私設の美術館は本業に影響を受けやすいですし、刀装具美術館が倒産のあおりで閉館となった際には所蔵品であった後藤や古美濃が大量に流出してしまい、相場が大幅に下落してしまい、現時点でも値段は以前と比較すると下がったまま上がる事が無い状態です


三年坂美術館については心配は無さそうですが、今後も素晴らしいコレクションを継続して貰い、刀装具のリーダーとして相場を牽引していって貰いたいものです









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る