第9話 山吉、信家、後藤、古美濃・・・

数年前の鑑定会の際に支部長に『刀装具に興味があるならば見せてあげるよ』と言われた事から慌てて訪問前日にネットを駆使して鉄鐔を検索、

たまたま、自分のイメージしていた鉄鐔の作者で【山吉 やまきち】という種類があることを知り、それについて会話をしようと決めました


当時は初めて訪問するお宅に緊張しつつ部屋に上がらせてもらいます


部屋の刀箪笥の上に刀掛けに飾られていた拵えや、壁に沢山飾られていた鐔について、ありきたりな会話をしました

刀剣について5振りほどを拝見し、いよいよ鉄鐔の順番


大して興味も無かったくせに昨夜仕入れたばかりの知識で

『鉄の鍔、中でも山吉には興味があります』などと言ってしまったものですから支部長の顔色がパッと明るくなり次から次に山吉を拝見する事になりました


刀剣もさることながら、刀装具にも明るい(セミプロ)ので所蔵点数が半端じゃありません

山吉だけを十数枚並べられて

『値段の高い順番に並べて御覧なさい、贋作も混じっているよ』

との事

まぐれ当たりで、4割バッターの打率の結果でしたからまずまずです


一枚だけ重要刀装具でお高い山吉兵が混じっていまして流石に他とちょっと違う雰囲気でしたが何が良くて何が悪いのか見方が分からずサッパリでした

値段を聞いてビックリ、今まで刀装具を少し軽んじていた事を知った瞬間です


まさか鉄の鐔一枚に百万円を優に超える金額があるだなんて


山吉が一通り終わると次の鉄鐔ですが、信家の鐔を拝見

この鐔は笄穴が埋められていて、木の葉が彫金されていました

曰く、夏雄が彫金したものだそうです

ホントかな? 確かに箱書きには佐藤寒山さんの書体で書かれています

これもついつい値段を聞いてしまい先ほどの山吉の倍、もはや驚かなくなりました


ただ、先ほどの贋作と言われた山吉の事も頭の片隅から離れず


こうして並べてみるから贋作だと何とか分かっても、一枚だけ贋作を見たら自信を持って間違った品物を買ってしまいそうです


この日は他にも何点か鉄鐔を拝見して帰宅しました


帰りの車中で思ったのは

『鉄鐔は分からない』でした


実際、こうして数年が経過して今の時点で見ても鉄の鐔は知れば知るほど難しいです他の数寄者に言わせれば『長い年月の中で鉄鐔を色揚げしたり細工をしていない品物なんて有り得ないし、重要にした品物でもそんなのはゴロゴロしているよ』との事


ヤフオクでその数日後、山吉の本物として出品されていた品物を一万円で落札しました

錆びの部分が多かったので鹿の角を使って丁寧に錆びを落としながら数十分、何か違和感があるし、この鐔からは嫌な臭いがする事に気付きます


例の如くネットを使い調べると、ガンブルーという薬品が検索にヒットしました


これかも、と思いここで初めて百均で買ったルーペを使って細かく見たところどう見ても鉄の雰囲気が違って鍛造ではない痕跡とそれを消したであろう中途半端なヤスリの消し跡を見付けました

現代のプレスを使った鉄製品をハンマーで叩いた後にガンブルーで黒錆びを付けた品物だと判断しました


元々一万円ですから、そう判断して一万円は勉強代だと思い綺麗に鉄錆びを落としていくと見事にどこかの鉄工場で見るような鉄地が表れました


元の持ち主が細工したのか、巡り巡ってここに来たのか分かりませんが、こうやって贋作はババ抜きされる事を初めて経験しました

勿論だと思いますが元の持ち主は取引蘭でもしらばっくれましたね


やはり分からない鉄鐔は協会の証書が無いと手を出してはいけない、とこの時は強く自戒したのです(まだまだ奥深い闇がある事はこの時はまだ知らなかった訳で・・・)





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