第3話 刀装具の話を・・
兼光の短刀を購入して満足したと見えてそれから長い期間は刀は博物館に足を運ぶ程度で新しく新規購入する事も無くかなりの時間が経過しました
再び買いだしたのは子供が小学校に行きだして手が掛からなくなった頃からです
その頃の私の頭の中は
刀剣店=ヤフオク相場より高い
刀剣店=足元を見られる
刀剣店=敷居が高い
という図式が出来上がっていまして、良い刀を如何にして掘り出すか、という観点でしかみていなかったです
だったら目が利くのか、と言えば全くの素人で目を肥やす為の努力をすることも無くて専ら、図録や刀剣界で有名な故人の書籍を読んでは分かった風な気になっていました
多分ですが、世の中の日本刀が好きな方はそのレベルの方が多いような気がします
(最近の刀剣女子の方は勉強熱心な女性が多くなりノートを片手に図を書きながら覚えているのを見かけます)
そんな訳ですから、刀工名や師匠、弟子筋との関係等の周辺知識ばかりは浅く知っても肝心の刀を視る性能は最初の左文字と何ら進展が無かったです
ヤフオクで下らない品物を落札しては審査に出して【現状】【偽銘】【銘に研究の余地あり】の返却ばかりが続き、刀身が協会から返却されるとヤフオクに再び流す、というそんな事ばかりしていました
場合によってはネットで探り当てた、会ったことも無いし話をしたことも無い研ぎ師さんにボロボロの脇差を研磨依頼したり、そしてまた鑑定に出したり、自分で錆び刀を研磨してみたり、今では訳が分からない行動ばかりしていました
動きがあったのは、私の仕事の関係で某電気工事会社の社長に出会った事です
その社長は一風変わっていて、私が初めて仕事で会社訪問をした際に応接の隅に刀袋を置いたままにしてありました
いくら趣味が刀剣でも職場の応接に置いたままにしている方は少数だと思います
違う職業の方みたいです
その方に水を向けたところ刀について話が止まらなくなってしまい結局初めて仕事で訪問をしたのに本題の仕事は数分、刀の話が三時間も聞かされる事になりました
刀剣の事を話せる知り合いがいなかったらしく、気に入って貰い仕事も頂けるようになりました
そして、その社長はこう言っては悪いのですが【下手の横好き】の典型で、上記のような有名刀工の名前で刀を集めてしまう方なのでした
数振り拝見させて頂きましたがコレクションに統一性もなく、清磨があれば古刀の名鑑漏れのような刀も拝見しました
共通するのは偽物か三流品ばかりという事です
私のような素人ですら分かるレベルの偽物の清磨を、大金をはたいて買う訳で大変に勿体ないと感じました
ただ、ここで良かった事は私が尻込みして中々飛び込めなかった日本美術刀剣保存協会の支部に参加されていた事です
次の会が来週あるから一緒に行こう、と誘われてしまい断る訳にも行かずに緊張しながら当日参加させて頂いたのを今でも思い出します
この社長と出会わなければ支部にも参加しないし、刀の鑑定会にも参加しないし、初心者に知ったかぶりをするオジサンになっていたかと想像すると冷や汗ものです
刀から刀装具に現在目が向いてそちらに活路を見出してこれからの数十年の目標が出来るキッカケもここから始まりました
人との出会いは大切だと痛感します
支部の鑑定会では、刀剣を東京の本部から5振り借りて来て協会本部の職員だったり元職員の先生が指導役となって一本入札または、時間があれば三本入札を実施します
本部から借りてくる刀はどれもこれも所載品レベルの品物ばかりで博物館に展示される刀がズラリと並び、茎の銘を隠した状態にされています
一振りずつを順番に見て隠された茎の作者である刀工名を当てていく、という流れになりますが日本中に一体何万人の刀工がいたかと考えたら作者を当てるだなんて
最初は困難を極めました
何しろド素人が刀工の氏名だけ知っているようなレベルなのですから・・
参加者の先輩方はさすがに凄く理屈と根拠を示して当てていきます
未だにとても敵わない目利きの先輩方ばかりです
ここでたくさんの刀の一流品を見る事でかなり鍛えられた気がします
参加者の先輩方は個性的な方が多く、当初は支部長に色々と教わりました
そのうちに会が終わった頃に参加者皆さん方の後方で数人が箱を見せ合っている事に気付くようになりました
ちょっと余裕が出てきたのかも知れません
三本入札の日は時間に余裕があり、たまたまその日は冴えていて五振りとも早めに
【当たり】や【同然】を取れたので暇になってしまい、後方で箱を見せ合っている先輩の事を覗き込んでみました
これが刀装具との出会いです
今まで何となく知っていた鐔やそれ以外の刀装具にも時代時代により様々な金工や作品があることを教えて頂きました
その日は鉄鐔を多めに持ち寄られていたようで、今思うと世間の評価的に高くはない鐔を話し込まれていました
支部長もたまたま覗き込み、私が興味深く見ていた事から何か感じたらしく『興味があるならば私の持ち物を見るかい?』と言って下さいました
次の週には支部長宅に手土産持参して赴いたわけで、ここから刀装具への扉が開きました
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