第玖舞

仕事が終った私はお父様に連絡をして寮へと帰る。


…あれ?寮の鍵閉め忘れたっけ?


どうやら閉め忘れていたらしい玄関を開いて中に入る。


見られて困るものは何も置いていないがこれからはちゃんと気をつけるようにしよう。何かあってからじゃ遅いしね。


パタン、と玄関のドアを閉めると同時にバタバタと足音が近付いてきた。


舞桜まお!お帰りなさい!!」


えへへ、と笑って私を出迎えてくれるまい


「…えっと、まいどうやって入ったの?」


「ん〜と、ほら装備科イクエ500円ワンコインでカードキー作ってくれる人がいるでしょ?その人に作ってもらった」


そう言って作ってもらったらしきカードキーを見せつけてくる。


装備科イクエというのは学科の一つで文字通り装備を作ったり売ったりする学科。


物騒な学科が多い中では珍しい方で基本的に戦闘訓練などはなく平和な学科だ。


私の制服を改造してもらったのも装備科イクエだったりする。


…プライベートも何もあったものじゃ無いね。


「はぁ、後で私の作らないように言っておかないと…」


流石さすがに色々な人に勝手に鍵を作られるのは嫌すぎるし…。


「ご、ごめんね?これまでも何度か入ってたんだけど…駄目だった?」


頭を抱える私を見て申し訳なくなったのかそんな事を言うまい


というか、今回だけじゃないのか…。


どおりでたまに物とかが勝手に無くなったりしてると思った…。


「カードキーは持ってていいけど、変なことしないでよ?後、戸締まりはちゃんとして」


カードキーを申し訳無さそうに差し出してくるまいにそう言うとパァァァ!!と顔が明るくなる。


「ホント!?やったぁ~!!舞桜まおのそういうところ大好き!」


…全く、現金な子だなぁ。


やれやれと首を横に振る私。


「それで、何で私の部屋にいるの?」


疑問に思っていたことを聞くと


「そうそう。舞桜まおに私の料理を試食して欲しくて」


そう言ってリビングの方へと入っていくまい。私も靴を脱いでまいについていく。


…さて、どう言い訳をして逃げようか?


目の前に置かれた料理とは思えない緑色のドロドロとした物体を前に思案する。


まいは料理が出来ない。というか、どうやったらこんなのが作れるのか分からない…。


昔ヤバいと思いながらも頑張って食べたことはあるのだが、この世の物とは思えない味と臭いがした。


意気込んで口に入れたのはいいのだがすぐに吐きそうになった。


流石さすがにそこは耐えたのだがその後が大変だった。


というのも吐くのを我慢するために口を必死で閉じていたせいで口から鼻へ直接臭いがやってきたのだ。


その後の記憶は無いがあとから聞いた話によると気絶していたらしい。


もはや一種の兵器だろう。思い出したくもない…。


ブルリ、と当時のことを思い出して身体を震わせる。


「さぁ舞桜まお、食べて食べて?」


タッパーを開けながらそういうまいの言葉が悪魔か何かのささやきにしか聞こえない…。


「あー、えっと…ごめんね。帰って来る途中にお店で食べちゃったからお腹いっぱいで…まいが自分で食べたら?」


「むぅ~そういう事なら仕方ないなぁ。持って帰って食べるよ」


そう言って緑色の物体を仕舞しまってくれる。


どうやら助かったらしい。


本人に言ったら怒られるけどまいが単純で良かった。


「そう言えば、用事ってなんだったの?」


「ただの仕事だよ」


「ただの…か。ねぇ舞桜まお私はバカだからさ…その、舞桜まおの気持ちの全部は分からないし、多分だけど私達のために動いてるんだろうなっていうのしか分からない」


そう言って私の手をガシッと握ってくる。


舞桜まお、辛いなら私達に言ってよ。何時いつも言ってるでしょ?私達は舞桜まおの味方なんだから…舞桜まおの抱えてる荷物を私達にも背負わせてよ」


懇願こんがんするように言うまい


気持ちは嬉しい。けどダメなんだ。


私の荷物を背負わせてしまえばもう二度と今のように心から笑えなくなる。


私はそんな2人を見たくなんてない。


だからこう言おう


まい、私は道具にんぎょうなんだよ。だから何も感じないし何も思わない」


淡々とそれを言葉にする。


舞桜まおは人形なんかじゃない!!何で、どうして分かってくれないの!?」


そう言って怒る…怒ってくれるまい


舞桜まお何処どこにでもいる女の子なんだよ!ちょっと人より強くって、ちょっと人より抜けてるだけの女の子。それだけなんだよ?」


まい、私は道具にんぎょうだよ。何処どこまで行ってもそれは変わらない」


まいの泣きそうな顔に対してそう繰り返す。


…何よりも自分に言い聞かせるように。


バチンッ!!と私のほおから音が鳴る。


舞桜まおの分からず屋っ!!」


そう叫んで寮から出ていってしまった。


まいに嫌われたかもしれない。そう思うと胸がキュッと締め付けられるように痛くなる。

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