第捌舞
「そいつ反省したんだろ?なら無理に成仏させる必要なんてないだろうが」
そんな事を言いながら除霊高の制服に着た男子生徒が姿を
正義感ぶったお人好し、まさしく今のこの状況のような印象を受ける見た目をしている。
漫画とかであれば主人公とでも表現出来そうな見た目の男子生徒だ。
「私は私の仕事をしてるだけ。誰か知らないけど邪魔しないで」
「俺は
そう言いながらチラリと女の霊の方を見る。
「こいつだって元々は人だ。人はいつだってやり直せる。そのためのチャンスは誰にだって必要だろ?だからそいつを無理に成仏させる必要なんてないだろ」
情に訴えるようにそう言ってくる
「そう。ならあなたはこいつが殺した人の責任を取ってくれるの?もしここで許して誰かをまた殺したら?」
「それ…は…」
私の言葉に言い淀む
…きっと彼の言い分は正しいのだろうし、そうであるべきだ。
…けど、この世界は彼が思っているほど正しくはないし、もっと、もっと汚れているものなのだ。
だからこそ私は彼のような気持ちを持っている人を汚したくない。
「いいよ、チャンスをあげる」
彼が納得するには理由が必要だ。自分の考えては間違っていなかったけど力が及ばなかったという言い訳が。
どうするかって?簡単なことだ
「私を倒せればこの女の霊を見逃す」
実力で負かせればいい。それだけで彼の中に都合の良い言い訳が作られる。
もっと強くならないと守りたいものが守れないと言う言い訳が。負けたせいで守れなかったという言い訳が。
そして、そのための悪役は私がやるのが
「言ったな?」
ニヤ、と
「…それはそれとして、あなたは逃さないよ?」
私と
「痛っ!?」
見えない壁にぶつかったようになる女の霊。
「結界か?それに今の
「まぁ、そんなところかな」
結界というのは簡単に言えば見えない壁を作ってその場所への出入りを出来なくするもののことだ。
つまりは女の霊を逃げられないように閉じ込めた。
「これで安心だね
「俺は女だからって手加減はしないぞ?後悔すんなよ?」
「…しないよ」
「約束守るよな?」
「さてね」
そう言って軽く肩を
これは言わば茶番のようなものだ。
ダッ‼という地面を蹴る音とともに
「っ!」
自分の左側を両手を十字にして守る。
同時に身体に衝撃が走り右に吹き飛ばされる。
何度か地面にバウンドしながら威力を殺して起き上がる。
「まじかよ…お前、人間か?」
驚いた表情をする
それはこちらのセリフだ。
人1人の身体を浮かせるほどの蹴りなんてものは常人が出していいものじゃない。
それも見えないほどほど早く。
大体
防御に使った腕がビリビリと痺れている。
下手をすれば腕も折れていたね…。
あぁ、久しぶりに張り合いがありそうなやつを見つけた。
心の中の
(私は人形なのに?)
その言葉で一気に熱が冷めた。
あぁそうだ。私は人形として仕事をするだけだ。
静かに歩いて女の霊に近付いていく。
…残念だけど
「お、おいっ!」
「ごめんね。せめて苦しめないように一太刀で終わらせるから」
「やめろっ!、近づくなっ!!」
ブワッ!と再び
「…せめて死後の世界でまともな人になってね」
女の霊だったそれは音もなく光の粒になり空へと昇っていく。
無駄に
私の結界が消えるとともに
「おい!まだ途中だっただろうが!何で約束を破ったっ!」
「…チャンスならちゃんとあげたでしょ?あなたは私を一発で倒せなかった。それだけだよ」
淡々とそう告げる私。
「最初からこうするつもりだったのかよ…」
クズやろう。そう
「いいか、俺は絶対にお前のやり方を認めねぇからな!誰かが不幸になるような平和なんてものはクソ食らえだっ!」
ギリッ、と歯ぎしりをして私を突き飛ばし、その場を立ち去った。
尻もちをついた私は土を払いながら立ち上がる。
胸に手を当てて鍵を外す。
「…私だって好きでやっている訳じゃないんだけどなぁ」
目に涙を浮かべながら
でもさ、仕方ないないでしょ?誰かがやらなきゃ他の誰かがやらされる。
みんなが幸せになるためには誰かが不幸になるしかない。誰かが手を汚さなければいけない。そんな世界なのだから。
それがたまたま私だったってだけ。
私はただ、守ると決めたみんなを守るために生きている。そして、そのためならば何でもやる。
…それが私。私に生きる意味を、心を教えてくれた恩返し。
だから…
「だから、私が幸せになりたいなんて望んだらいけないのに…」
「『誰かを不幸にする平和なんてなんて認めない』、か」
もし、もし本当にそんな世界だったら
「私も、もう少しだけ幸せになれるのかな…」
そんなあるわけのないもしもを考えてようとして止める。
だってそうでしょ?存在しないものを願ったところで世界は変わらないのだから。
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