第漆舞
「…すみませんお父様。遅くなりました」
そう言いながら電話に出る。
「今は大丈夫か?」
「…はい。周りに誰もいません」
「そうか。なら本題だが最近お前の学校の付近で事件が多くてな。何でも
「…はい、分かり、ました終わったら報告します」
それだけ言い残して電話を切る。
…
あ~あ、私はただ、2人と一緒に毎日を過ごしたいだけなのになぁ、何でかなぁこう上手くいかないのは。
目に涙を浮かべる私。
最近はこうした呼び出しが無くなっていたから油断していた。でも、結局のところ運命ってやつからは逃げられないらしい。
ギュッ、と強く胸を握りガチャン、と鍵を閉める。
「…さて、ちゃちゃっとやりますか」
それから私は学校の周辺を当てもなく歩きながら霊を探す。
霊は霊力という特別な力的なやつが出ているから近くにいれば嫌でもわかる。だからこうして手当たり次第歩いて探すのがいいだろう。これまでもそうしてきたし。
お父様が言っていた
霊は物理的なものはすり抜けるが霊力を持った物なら当たる。
除霊師に最低限必要な力は何かと聞かれれば霊力だ。霊力が無いと戦うことすら出来ないし…。
つまり除霊師とは霊力を持っていて霊をぶん殴って
死んでいる人をもう一度殺す仕事と言い換えられ、いわば除霊師はみんな人殺しだ。
私は小さい頃、それこそ自我が芽生える前から戦うためだけに育てられた。
大人の便利な
だからこうして色々な仕事を言い渡される。
霊を成仏させるのは
…人形でしか無い私に感情なんてものは与えられていなかった。そんな感情を教えてくれたのは2人。だから私は2人のためならなんだってする。
…だって私にはそれしかないから。2人を失えば私には何も残らない。それが恐ろしく怖い。
いくら2人のためと己を偽っても根本的には自分のためでしかないのだ。
それでも2人を大切に思う気持ちに嘘はない。私は2人が喜んでくれるだけで幸せだから。2人と居られるだけで幸せを感じられるから。
その幸せを私は守りたい。それだけなのだ。
サラサラと風に揺られて花びらを散らす桜の木が見えた。
「あなたも私と同じように空っぽなのかな?それとも何かあるの…かな?」
軽く桜の木に触れてそんな独り言を
「ねぇ、そこの人、死にたいなら殺してあげようか?」
後ろから女の声がした。
振り向くと空中に浮いている大人の女が見えた。
「最近
「あれ?そんなに有名になっているんだ。なんかちょっとだけ嬉しいな」
ニヤつく
不意打ちのそれは女の霊の片手を斬り飛ばした。
「えっ?あれっ!?」
少し遅れて自分が斬られたことに気がつく女の霊。
霊は痛みをあまり感じない。だからいくら痛めつけても叫ばない。
…精神的にはありがたいことだ。相手が死人とはいえもう一度殺すのだから。
「…よくも、よくも私の腕をっ!!」
自分の腕を斬り飛ばされた腕を見て怒り心頭といった様子になる女の霊。
「殺す、殺してやるっ!!」
ブワッ、と女の霊の手から
「死ねっ!」
迫りくる
「うぎゃぁぁっ!!熱いっ!!熱いぃ〜!!」
痛みなどは感じにくいだけであって感じるときは感じる。
特にこうして自分に何が起きているのか自覚しやすい場合などは、生きていた頃の経験などから無意識的に判断している…らしい。
…正直のところ、よく分からない。
まぁ、詳しいことはそのあたりを研究しているところに任せる。私はただ仕事をするだけだ。
「残念だけど、私に
必死に身体の
「安心して、私は別に無意味にあなたを苦しめるために来たんじゃないから。今のはあなたが反抗しないようにしただけ。何もしないならこれ以上苦しめることはないよ。」
優しい声でそう言いながら女の霊へと近付いていく。
「謝るっ、謝るからっ!もうしないって約束するからっ!」
怯えながら必死に言う女の霊。
「…謝ってもあなたの殺した人は帰ってこないよ。それに、嘘はいけないよ?私には
さて、早く終わらせるか。
そう思い普段から隠し持っている
「ちょっと待てよ」
という男の声がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます