第肆舞

チャキッ、とナイフを構える子生徒。


武器それがあると手加減しにくいんだよなぁ」


ダッ!と一気に距離を詰めてくる。


何の変哲へんてつもなくただただまっすぐに走ってくる。


ヒュッ、と左からせまってくるナイフを左手の人差ひとさゆび中指なかゆびの間にはさんで止める。


真剣白刃取しんけんしらはとりと呼ばれる技の片手版だ。


 「っ!?」


驚いた顔をしながらナイフから手を離し、バックステップで距離を取る男子生徒。


ナイフから手を離す判断は正しい。そうしていないと私は彼に蹴りなり何なり入れられていたからだ。…まぁ、追撃されないように逃げないと意味ないんだけどね。


ナイフを捨てて男子生徒のがら空きのふところに潜り込んで掌底しょうていを腹部に打ち込むギリギリで止める。


「…1回目」


ヒュンッと風を切っておそってくる男子生徒の右手を足場にしながら一回転するようにして頭の上を飛び越える。


クルリと男子生徒の方へと振り向いて首筋に中指なかゆびを突き立てる。


「…2回目」


ガシッ、と首筋に突き立てた左手を掴まれて


「おらっ!」


と一本背負いで投げられる。


受け身を取るためにそのまま背中から落ちるのが普通なのだが、足から着地する。


着地の衝撃でビリビリと痺れるような痛みが走るのを無視してそのまま男子生徒を投げ返す。


全く予想していなかったようで「うおっ!?」と上手く受け身を取れないままドタン!と地面にたおれる。


これやるとほとんど片腕で投げることになるから腕が外れそうで痛いし怖いんだよね…。


「これで3回目。次は本気で攻撃するけどどうする?」


仏の顔も3度までという意味でそう言うと


「くそっ!!」


と悔しそうに歯ぎしりする男子生徒。


「約束通り、もう二度と私に関わらないで」


「誰がそんな約束守るかよっ!俺は俺の目的のためならなんだってしてやる」


はっ、と嘲笑あざわらう男子生徒。


「もう一度言うね。二度と私に関わらないで」


男子生徒をにらみつけ、ちょっとだけ殺気さっきを放つ。


「っ、わ、分かったもう二度と近づかねぇよ」


途端とたんにタジタジになり逃げるように走って姿を消した。


「はぁ、やっと終わった。早く学校に行かないと…。まい怒ってるかなぁ」


そんな事をつぶやきながら男子生徒の使っていたナイフを拾う。


このまま捨てておく訳にはいかないし、持っていくか。最悪売ればお金になるし。


そう思い、防刃性ぼうじんせいの制服のネクタイで刃の部分を包んでポケットの中に入れる。


流石さすが先輩、ですね」


パチパチという拍手と同時に上からそんな声が聞こえてきた。


「…次から次に今度は何の用なの?」


上を見ると長い銀髪ぎんぱつの女子生徒が家の屋根の上にいるのが見えた。


スカートをきちんと押さえてフワリ、と私もと同じぐらい―腰の少し下ぐらい―の髪をなびかせながら私の前に飛び降りた。


身長は大体150cmちょっと。私より少し低いくらいだ。


瞳は綺麗きれい紫紺色しこんいろをしていてここじゃない何処どこか遠くを見ているように感じた。


なんとなくだけど…私に似ている?


「で、あなたは誰?」


警戒しながらそう聞くと


「シエスタ。シエスタ・ホームズです。これからよろしくお願いしますね、先輩」


と丁寧に挨拶あいさつをしてくる。


「この学期から転校してきました。かの有名なシャーロック・ホームズの子孫です」


透き通った綺麗な声。


シャーロック・ホームズというのは有名な名探偵の名前。様々な難事件を解決したり、アルセーヌ・ルパン、ジェイムズ・モリアーティ教授などの有名な犯罪者を相手にしていた偉人だ。


あまり知られていないがシャーロック・ホームズはただアタマがいいだけではなく戦闘も強かったそうだ。総合格闘技こと「バーリ・トゥード」、縮めてバリツと呼ばれる技の使い手だったとか。確かさっき使った真剣白刃取りもバリツの技だったはずだ。


簡単に言うと戦う探偵といったところだろうか?どちらにせよ面倒な相手に目をつけられたらしい。


「あっ、すみませんが私がホームズの子孫ということは内緒にしていただけないでしょうか?目立つのは好きではないので…」


「それは、別にいいけど…。それならどうして私にそれを教えたの?」


「一方的に知っている、というのは不平等に思いまして」


刹那せつな私はほとんど反射的にシエスタを地面に押し倒して押さえつけた。


「何を、何処どこまで知ってるの」


グッ、と喉元のどもとにあてている指に力を込める。

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