得心
そして僕が彼女と会った最後から2番目の日。
この日は特に予定も決めていなかったので、目的はないが家から少し離れた大きめのショッピングセンターに行くことになった。
いつものように彼女を車で迎えに行き、歩道で迎えを待つ彼女を見つけて、路肩に車を停車させる。
助手席に乗り込み、シートベルトをしたのを確認して発車したが、すぐに信号に捕まってしまった。
信号を待つ間、助手席に目をやると彼女の着ている服が好みだったので、信号に視線を戻しながら「今日の服いいね」と言ってみた。
すると彼女は僕が好きそうな服だと思って選んだのだと嬉しそうに話した。
僕ははっとした。
そうだ、きっとこの時だ。
僕が彼女への好意が急激になくなってしまったのは。
記憶を辿る中で僕は確信した。
自由なところが好きだった彼女は、自分の髪型や服装を彼氏の好みに合わせる彼女になっていた。
彼女は悪気など毛頭なく、むしろ良かれと思ってのことだろう。
しかしこの瞬間、彼女の中に僕が侵食してしまっていることに気付いたのだ。
好きな色だったものに触れてしまうことで、その色を変えてしまったような、滲むに留まらず染めてしまったような。
「好きなお店に入り、好きなものを見て、それについて僕が話している時にはもう別のものに吸い寄せられている、そんな彼女はもういないのだ。」
「ガチャガチャのカプセルを当然の如く開けてもらって喜んでいた自由な彼女はもういないのだ。」
きっとそんな感情が脳で理解するよりも速く僕の中に巡ってしまったのだろう。
その瞬間、好きだったはずの彼女への好意が急激になくなってしまったのだ。
次に彼女と会った時には、微笑みながら投げかけられた話題も、物欲しそうに向けられた視線にも、僕は目を合わせずにぎこちなく答えることしかできなかった。
この言葉を返せば、きっと彼女が喜ぶであろう言葉が頭に浮かんでも、それを口にすることはできなかった。
そして特に険悪なムードになることもなく、ましてや和やかなムードに包まれるはずもなく、歯車が噛み合うことのないまま1日を過ごし、彼女を駅に送り届けた。
きっと最後に彼女の目に映った僕は、また同じようにぎこちない表情で手を振っていたのだと思う。
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