第2話 フランス:アナウンサー アルマ
空が赤く染まり、空飛ぶ人食ザメが降リ注ぐ惨劇は、瞬く間に世界中に広がっていった。それはこのフランスでも変わりはない。
サメが襲撃した直後のこの田舎町は、正に悪夢としか表現のしようがない有り様だった。レンガ造りの素朴な家々と緑が広がる簡素な町は、見る陰もなく荒れ果てていた。
無惨に転がる死体。生きている者も深い傷を負い、悲しみに包まれて動くことすらできなかった。
そんな悲劇の最前線を私達わずか四人の報道クルーが進む。
「こんばんわ~。ニュース ボンソワールのアナウンサー アルマですぅ。今日はシャーク戦線の最前線を取材しちゃいまぁす」
このサメとの戦争は、はっきり言って私にはチャンスだ。言葉には出さないけれど一発逆転、のし上がりへのめっちゃチャンスなのだ。世界中が危機にさらされている今、最前線まで出て報道できる素質のある人間は限られている。
ムカつく売れ残り先輩アナウンサーや、顔だけのミーハーバカ新人を一網打尽にしてやる。
そしてこの暗い世界を照らす光となり、戦火のアイドルになれば、戦争が終わって平和になった暁には、世界中のいい男どもをよりどりみどりの選び放題だ。
「きゃぁ! こんなところに死体が。アルマ怖ぁ~い」
私がか弱き女性を演出しているところにクルーのぼんくらの邪魔が入る。
「おい、もうちょっとまともに喋れねぇのかよ。緊張感も何も伝わんないだろうが」
「はぁ? 本当に使えない男ね。暗い絶望的な雰囲気の中でお通夜みたいな報道やっても気が滅入るだけじゃない? それに私がターゲットにしてる男なんて、女がキャピキャピしてれば喜ぶバカばっかりだからこれでいいの。だまってついて来なさい」
こちとら世の男のバカさ加減は平時の時に重々承知してんの。じゃなきゃ、若いだけのバカ娘をチヤホヤするわけないじゃない。ようするに男はこんな感じの馬鹿っぽい女に安心感を覚えるんでしょ?
赤く染まった空を見上げる。遠くでまた隕石が落ちたようだ。そう、人食いザメが乗った隕石が。構うことはない。近くの生き残った住民にインタビューが取れればそれでいい。
クルーは一人うなだれて壁に寄りかかっている男性に目をつける。
「すいませぇ~ん。あなたもサメに襲われたんですかぁ? 大変でしたねぇ」
「え? これ、テレビ? 俺、テレビに映んの? いいぜ、俺インタビュー受ける」
今どきテレビくらいで盛り上がっってくれるなんていい町ね。私達はこの町がサメの一団に襲われた状況などを質問すると、負傷した男は前のめりで受け答えをしてくれた。
「やつらは飛んでいるんじゃない。空中を泳いでいるんだ。銃を向けた時にはもうそこにはいない。さっと空を泳いで背後に周り込んでは喰らいつく」
「サメと戦うのは至難の業ですねぇ」
「でも生き残ってやるさ。俺はこの戦いが終わったら結婚するんだ」
「え? それフラグ……」
遠方で瓦礫が崩れる音が聞こえた。そちらに視線を向けると、そこには集団からはぐれたのか、一匹のタイガーシャークが姿を現した。
「わあ! わあ! 死亡フラグだって! 婚約撤回して!」
「え!? ふらぐ? 死んだらもともこもない。婚約は撤回しよう」
タイガーシャークはこちらに気づかずに去っていった。ふう、危ないところだったと、私達クルーとインタビューに答えてくれた男性はホッと胸をなでおろす。だが、思いもよらない悲劇が起こった。
「婚約撤回ですって! どういうこと?」
「ええ!? キミいたのかい? 違うんだ。この人達にフラグだとか何とかそそのかされて。もちろん戦争が終わった結婚の約束は忘れていないよ」
「わあ! バカ! またサメが帰ってきたぞ」
絶体絶命のピンチ。そこで私は名案を思いついた。
「もう、こうなったらここで結婚しちゃえ! そうすればフラグ回避で丸く収まる!」
「それ、キッス! キッス!」
クルーの皆で手拍子で盛り上げながらキスを促すと、若い二人は照れながら私達の前で口づけを交わした。
「スクープ! 戦火の結婚式。これでいきましょう。おめでとぉ~」
遠くでタイガーシャークが私達を不思議そうに見つめていた。
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