第3話 アメリカ:生物学者 エビハラ博士
宇宙ザメが世界中に飛来して間もなく、国連は解散した。人類そのものの危機に対して地球規模での新たな枠組みが必要になったからだ。
そして、国連の施設を有効活用した地球連合が発足し、また地球連合軍が設立された。その地球連合に所属する国々はワンチームとして、全ての技術や情報、軍隊を共有しているのだ。
当然、天才生物学者である私も招集され、宇宙ザメの研究に取りかかった。そしてその驚異的な研究成果を発表するために、ここニューヨークの地球連合本部の門を叩いたのだった。
「つまり私の研究により、驚くべき事実が判明したのだ。私はこの成果をエビハラの衝撃レポートと呼んでおる」
「エビハラ博士、前置きはいいから、さっさとその事実とやらを報告してくれ」
会議室には私と理事長、そして幹部の理事達数人のみが座っている。彼らは焦っているのか私以外は用意された飲み物にすら手を付けないでいる。
「前置き」と言った地球連合理事長の言葉にはムッとしたが、まあいい。私も大人だ。先を急ごう。
「空を泳ぐサメ達は体の構造や組織が、地球にいるサメ達と大きな部分ではほとんど変わりがないと判明したのだ! そこで私はある仮説を立てた。地球に生息するサメの祖先は宇宙から来たのだと!」
理事達は目をひん剥いて驚愕の顔を見せる。してやったりだ。ナイス! エビハラ。
「地球のサメも宇宙からだと!? しかし、空飛ぶサメが目撃されたであろう最古の記録である、チベットの壁画ですら、おおよそ2万年前ではないか。サメの祖先は恐竜時代からいたとの説が一般的だぞ?」
「理事長殿、私は天才生物学者のエビハラですぞ。歩く生物大百科と自称する私がそんなことを想定していなわけないでしょうよ。釈迦に説法、エビハラに生物学でしょうよ」
「でしょうよ、じゃないでしょうよ。回りくどい言い方は止めて、端的に説明したまえ」
やれやれ、せっかちな人だ。
「空飛ぶサメは1億5000年以上前に地球を訪れていた。それが私の学説だ! だがジュラ紀には大型の恐竜がいた。サメと恐竜の大戦争の後、サメは海へ逃れ、恐竜は……絶滅したのだろうと」
「謎に包まれた恐竜の絶滅の真相は宇宙から来たサメとの大戦争だというのか!?」
「ちなみに隕石絶滅説とも被っているので、これは当たりなんじゃないかと私は思っている」
「ぐうむ、だが、いくら生体構造が似通っていると言っても、海にいるサメは地上に引き上げても空など飛ばんだろ」
「ここがエビハラのレポートの凄いところなのだが、宇宙ザメには体の周りを気体状の物質で覆わせる器官が備わっていることが分かったのだ。そのことが大きく違っている。そしてまだ特定はできていないが、体を覆う謎のガスこそが空を泳がせることに役立っているようですな。そこで私は宇宙から飛来したサメどもをこう命名しました……」
私の命名した名前が今後スタンダードになるのだ。ここは思い切り貯めさせてもらおう。
「……フライングシャークと!」
部屋が静まり返る。私の天才的なレポートに理事共は言葉も出ないようだ。
「空を飛ぶ器官だが、地球のサメについては退化したのだと私は考えておる。そして、小規模の飛来だったのか2万年前のチベットの壁画。どうして、そのサメが空を手放したのかが分かれば解決の糸口になるのかも知れないな」
突然、地球連合本部にブザー音が鳴り響き、施設内に緊急連絡の放送が響く。
『緊急連絡! 緊急連絡! ペンタゴンに巨大ザメの集団が出現との情報あり。素早い動きと驚異的なパワーで戦車をもなぎ倒して進軍しているとの報告。リーダー格は全長50フィート(約15m)を超す伝説のメガロドンタイプとのこと』
「クソ! シャークエイリアンどもが!」
「なんてこった。メガロドンだと? シャークエイリアンの新種か!」
ええ!? シャークエイリアンて? 今、フライングシャークって命名……ええ!?
「うそ~ん?」
「嘘ではない。これが現実なのだ、エビハラ博士。実は混乱をきたすため、まだ一部の人間にしか共有していない情報がある。月の四分の一ほどの大きさの巨大な赤い隕石が、地球の周りを周回している。地球に降り注いでいるシャークエイリアンを乗せた隕石群はそこから分離されているのだ」
「シャークエイリアンの本隊が地球にやってきた可能性があるということです。エビハラ博士」
「そんな……そんなバカな……」
寝る間も惜しんで考えたフライングシャークの名称が……。
「消え去る……」
「そんなことはさせない! 人類を消してなるものか! こちらも英雄を向かわせる。マックス大佐に至急連絡を!」
慌ただしく指示が飛び交う施設内のその喧騒の中で、私は一人絶望を感じていた。
フライングシャーク…………。
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