61話 私こそ、頑張るから
「………うっ」
いつもより早く目が覚めた莉愛は、隣で寝ている蓮をジッと見つめる。
そう、隣にいる。蓮が……隣にいる。昔みたいに。
「………バカ」
急に照れくささが込みあがってきて、どうしようもなくなる。
未だにすやすや寝ている蓮の頬に、莉愛は手を添えた。窓際から朝日が注がれて、それでも幸せな気持ちになる。
ああ、今日が週末だったらいいのに。そうすればもっと、蓮と二人きりでいられるのに……。
「すぅ、すぅ……んん………」
「……蓮」
昨日の蓮は、すごく優しかった。興奮でいっぱいいっぱいになりながらも、最大限自分を配慮して気遣ってくれてたことを、莉愛はよく感じていた。
ほぼ2年ぶりのエッチ。でも……2年前よりずっとずっと気持ちよかった、最高のエッチ。
「……責任取ってよね?」
莉愛は、気が付いたらサラッと重い言葉を投げていた。これじゃ昔のままじゃんと思うものの、仕方ないと莉愛は思う。
あんなにキスするから、あんなに抱きしめてくれるから……脳がバグって、理性が蕩けて、また昔に戻ろうとしているのだ。
本音を言うなら、このまま学校もサボりたかった。サボって、一日中イチャイチャしながらいっぱいキスしたかったけど、でも……。
「さすがに、学校は行くべきかな……」
惜しいなと思いつつ、莉愛は自分を抱きしめている蓮の腕を見つめる。
この腕に、抱かれた。
再び、蓮に愛してもらえた……その実感が急に湧いてきて、また変な気持ちになりそうになる。
「んん、ん……」
「……蓮」
「………」
「寝てるよね?」
念のための確認をして、蓮が目覚めないのを確認した後。
莉愛は、蓮に懐に顔をうずめながらふう、と深呼吸をする。昔によくしていたことだった。
付き合っていた頃に、甘えるためだけにやっていた行為。莉愛は昔の気持ちに浸ったまま、言葉を紡いでいく。
「……大好き」
「……………」
「好き、好き……大好き。本当に大好き………」
「……………すぅ、すぅ」
昔の面影が首をもたげる。蓮に執着していた、蓮に絶対的な愛を強要していた理不尽な私が……蘇ろうとする。
莉愛は直感的にそれを感じていた。だって、仕方ないのだ。好きになればなるほど、欲しくなっちゃうから。自分はそういう人間だから。
……あの頃より少しはまともになったと思ったのに、まだ昔のまま。
本当に救いようがないと思いつつも、莉愛は連を抱きしめる。
「好きだよ……早く、早く責任取ってよ……バカ」
「……」
「……責任取ってくれないと、一生呪うからね?」
重すぎるしどぎついけど、これが莉愛のちゃんとした本音だった。
もう、蓮を手放したくない。どこにも行かないで欲しい。ずっと……ずっと、傍にいて欲しい。
その浅ましい執着に付き合うことを、自分はまた蓮に押し付けている。ダメだと思いつつも、だ。
エッチで増幅した気持ちは段々とかさばって、莉愛の理性を飲みつくす。
『……どうすればいいの。どうすれば……昔みたいにならないの?』
もう二度と、別れたくない。変わらなくちゃ、成長しなくちゃ。理性をちゃんと……働かせなくちゃ。
そして、その時。
「………ぁ」
急に、自分をぎゅっと抱きしめる力を感じて。
莉愛は小さく、驚いたような声をこぼす。間もなくして、莉愛は顔を上げて蓮を見つめた。
「起きてるよね?」
「………」
「……これ以上寝るふりしたら、襲うから」
「学校あるだろ、学校。ほら」
仕方ないとばかりに苦笑しつつ、蓮はゆっくり目を開ける。
莉愛はとっさに顔を赤くして、蓮に尋ねた。
「……どこからどこまで聞いたの?」
「大好き~って言ったところから、責任取って~て言ったところまで」
「ほ、ほとんど全部じゃん!!このバカ!!」
「ちょっ、暴れるなって!ははっ、もう……中学時代の七瀬莉愛に逆戻りですな~」
「むぅ……」
核心を突かれて、莉愛は返す言葉が無くなってしまう。
そのモヤモヤを宥めるように、蓮は莉愛の頭を撫でた。
「莉愛」
「うん」
「俺、この前に言ったよな?恋人じゃ足りないって」
「……うん」
「俺、もう二度と……別れたくないんだ」
いつもより真剣さが溢れる声に、莉愛の顔も自然と真面目になる。
蓮は、笑顔のまま言葉を続けた。
「もう君と別れるのはごめんだから……うん、頑張る」
「………」
「まあ、君が理不尽なのは百も承知だし。今度は俺がちゃんと全部受け止められるように、頑張るから」
……この男は、なにを言っているのかな。
莉愛は心底、そう思うしかなかった。自分の理不尽を全部受け止めるって……それはただの、犠牲を強いているようなものじゃないか。
悪いのは全部私なのに。我儘なのも理不尽なのも、私なのに。
「……ううん」
だけど、中学時代の自分はこれを知らなかった。あの時はただ、蓮が他の女の子と会話するだけでも頬をパンパンに膨らませていたから。
……でも、高校生になった今なら分かる。蓮に一方的に受け入れることを強要する関係なんて、間違っていると。
だから、莉愛は言う。
「私の方が、何十倍も、何百倍も頑張るから」
「……莉愛」
「だから、最後にはちゃんと私を選んでね?」
鼓動がうるさい。でも、ちゃんとした本音だった。
こうして、蓮と抱き合っている瞬間が幸せそのものなんだと、莉愛は分かっているのだ。その幸せを二度も手放してはならない。
短いキスをした後に、莉愛は釘をさすように言う。
「あなたに愛想をつかされないように、私こそ頑張るから」
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