60話  最後まで、やるね

急に縮まった距離に蓮の目が見開かれる。あたかも自然に、莉愛は連の頬に触れていた。


しかし、少しも不愉快じゃなくて。むしろ好きで、大好きで……目の前にいる莉愛が綺麗すぎて、蓮は顔を逸らそうとする。恥ずかしさのあまりに。



「ほら、ちゃんと私を見て」

「っ……」



だけど、その瞬間に莉愛の手によって蓮の顔は正面に戻された。


息遣いが届きそうな距離だ。そんな距離で、莉愛は徐々に蕩けた表情を浮かべる。



「早く、言ってよ……私しかいないんでしょ?」

「ちょっ、莉愛……」

「私しかないって言って。そうしたら、ご褒美あげる」



……ここまで言われて、退くわけにもいかない。


莉愛の気持ちに応えるためでもあったけど、それ以上に―――ただ、目の前の女の子が愛おしすぎるから。



「お、俺には……」

「……うん、あなたには?」

「な、ななせ……あ、ぅっ……」

「…………………………………」

「……七瀬莉愛しか、ない、です………」



心臓が止まりそうになる。


さっきまで喧嘩寸前だった雰囲気が、一気に熱っぽいものになる。莉愛は狂おしいほど、蓮を見つめていた。


バカ、なんで敬語なのとツッコミを入れたいところだったけど……そうするには、心臓がちょっとヤバい。


昔だったら、絶対に言ってくれなそうな言葉。少し変わった今でも、体をぶるぶるさせないと言えない言葉。


でも、不器用ながらもそうやって伝えてくれる蓮が、大好きで―――



「……私にも、日比谷蓮しかないからね?」

「え?あ―――」



莉愛はそのまま、好きな人の唇を塞ぐ。


急なキスに驚いたものの、蓮はすぐに目をつぶって体を後ろに倒す。ベッドの柔らかい感触と共に、莉愛の香りが一気に体中に広がっていく。


確かな感触を主張する、二つの丸み。莉愛も成長したという……証。


そして、蓮も。



「………んん、ふぅ、ふぅ……」

「…………」

「キス、上手すぎ……バカ」



中学の時よりよっぽど固くなった体で、莉愛を着実に溶かしていた。


3日を渡って、二人は再びベッドで見つめ合う。莉愛の心臓が止まりそうになって、前に自分を襲った興奮が再びよみがえろうとした。



「……莉愛」

「な、なに?」

「……今度は、鼻血吹くなよ?」

「あ、あなたにはデリカシーというもんがないの!?なんでこんな時に―――んん」



なにか抗議をしようとした唇を塞いで、蓮は体を回してから一瞬で莉愛を押し倒した。


キスの湿り気と蓮の勢いで、分かる。これは、もう戻れないヤツだと。


……本当に、このままやってしまうのだと、莉愛は感づいてしまう。


だけど、それは嫌じゃなくて。大好きで、大好きで―――酸欠になりかけていたところで、蓮が顔を離すと。


さっきまで怒っていた莉愛はもう、完全に溶けていた。



「……蓮、れん……」

「うん」

「わたし、わたし……っ」



色々な感情が一気に押し寄せてきて、莉愛は言葉を上手く紡げなくなる。


目じりに涙が浮かんで、でも心臓は爆発しそうで、相反した反応が次々と体に出てくる。


でも、蓮は引かなかった。仕方ないなと軽くあしらいながら、蓮は目じりに浮かんだ莉愛の涙を拭う。


その姿は紛れもない、自分が大好きな日比谷蓮そのもので。


莉愛は、相変わらず蕩けた表情で言い放つ。



「……寂しかったん、だから」

「うん」

「あなたとずっと、したかったから……」

「……うん」

「だから、今度はちゃんと最後まで……やって。私のすべて……昔のように、奪って」



震えた声色を最後まで聞き取った、蓮は。



「うん、最後まで……やるね」



興奮と優しさが混ぜ合った声で、莉愛をぎゅっと抱きしめた後。


再び、大好きな女の子の唇を塞いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る